「ミラさん、SNSを気にしすぎじゃないですか?」
空がそう言ったのは、ミラが三度目にスマホを見た時だった。
ミラが少し驚いた顔をする。「そう…かな」
レオが本から顔を上げた。「投稿への反応を確認している?」
ミラが頷く。今朝、絵を投稿したのだ。
「何回見ても、『いいね』の数は変わらないよ」空が優しく言った。
「でも」ミラが小さく言った。「まだ、誰も反応してくれない」
レオが興味深そうに聞いた。「反応がないと、不安になる?」
「うん。自分の絵が、つまらないんじゃないかって」
空がノートに書いた。「外的評価への依存」
「外的評価?」ミラが聞く。
「自分の価値を、他人の評価で決めてしまうこと」空が説明した。「承認欲求とも関連しています」
レオが補足した。「心理学では、自己価値の源泉が二つある。内的なものと外的なもの」
「内的なのは?」
「自分自身の基準。『これは良い作品だ』と自分で判断する」
「外的なのは?」
「他人の評価。『いいね』やコメント、賞賛など」
ミラが考え込んだ。「私は、外的に依存してる?」
空が静かに言った。「依存度は人それぞれです。でも、外的評価だけに頼ると、危険なこともあります」
「どんな?」
「評価が得られないと、自己価値が崩れる」レオが答えた。「そして、他人の反応をコントロールできないから、常に不安になる」
ミラがスマホを置いた。「確かに。いつも、チェックしてる」
空が聞いた。「ミラさんは、なぜ絵を描くんですか?」
「え?」
「誰かに認められるため?それとも、描くこと自体が好き?」
ミラが少し考えた。「両方…かな。でも最近は、反応ばかり気になって」
「それが問題なんだ」レオが言った。「活動の動機が、外的報酬にシフトしている」
「外的報酬?」
「『いいね』や賞賛。それらを得るために行動するようになると、内発的動機が弱まる」
空が説明を加えた。「つまり、純粋に楽しいから描くのではなく、評価されるから描く、という状態です」
ミラがため息をついた。「そうかもしれない。最近、絵を描くのが、楽しくなくなってきた」
「典型的なパターンだ」レオが頷いた。「外的評価に依存すると、活動そのものの喜びが失われる」
空が優しく言った。「でも、承認欲求自体は悪いものではありません。人間は社会的な生き物ですから」
「ただ、バランスが大切」レオが続けた。「外的評価を参考にはするが、それで自己価値を決めない」
ミラが聞いた。「どうすれば、バランスが取れる?」
空が提案した。「まず、評価を気にせず作品を作る時間を持つこと」
「投稿しない?」
「投稿してもいい。でも、反応をチェックする頻度を減らす。一日一回だけ、とか」
レオが追加した。「そして、自己評価の基準を明確にする。『自分は、この絵のこの部分が好き』と言えるようにする」
ミラがノートを見た。「他人がどう思うかではなく、自分がどう思うか」
「そう」空が頷いた。「他人の評価は、あくまで参考情報。最終的な判断は、自分が下す」
レオが本を閉じた。「興味深いことに、外的評価を気にしすぎると、逆に評価が下がることもある」
「なぜ?」ミラが驚いた。
「他人の好みに合わせようとして、自分らしさが失われるから。独自性がなくなると、作品の魅力も減る」
空が微笑んだ。「だから、自分の内的基準を大切にすることが、結果的に良い評価にもつながります」
ミラがスマホの通知をオフにした。「今日から、一日一回だけチェックする」
「良い決断だ」レオが認めた。
「そして」ミラが言った。「描きたいものを、描く」
空が頷いた。「それが一番大切です」
図書館の窓から、柔らかい光が差し込む。他人の評価は波のように変わる。でも、自分の価値は、自分で決められる。
「ありがとう」ミラが微笑んだ。「少し、楽になった」
外的評価に依存する理由は、内的な自信の欠如かもしれない。でも、その自信は、少しずつ育てられる。今日が、その第一歩だった。