自分の価値がわからない夜

自己価値感の揺らぎと、内在的価値の発見への探求。

  • #自己価値
  • #自尊心
  • #無条件の肯定的配慮
  • #自己受容

夜の研究室。空は一人、窓の外を見つめていた。

「まだいたの?」日和が戻ってきた。

「自分の価値って、何で決まるんでしょう」空が突然聞いた。

日和がゆっくり座った。「どうしたの?」

「今日、プレゼンがうまくいかなくて。みんなの前で失敗した。自分って、何の価値もないんじゃないかって」

「それは辛かったね」日和が共感した。

海斗が部屋に入ってきた。「俺も同じこと考えたことある」

空が驚いた顔をした。「海斗さんも?」

「しょっちゅう。テストの点が悪いと、存在価値がない気がする」

日和が二人を見た。「では、質問です。価値は、何かができることで決まるのでしょうか?」

空が考えた。「違う...でも、成果がないと認められないですよね」

「認められることと、価値があることは同じ?」

海斗が首をかしげた。「違うのか?」

日和が説明し始めた。「カール・ロジャーズという心理学者は、『無条件の肯定的配慮』という概念を提唱しました」

「無条件の...?」

「条件なしに、存在そのものを受け入れること。何かができるから価値があるのではなく、存在しているだけで価値がある」

空が戸惑った。「でも、現実社会は成果主義ですよね」

「そう。だから多くの人が、条件付きの自己価値に苦しむ」日和が頷いた。「成功したら価値がある、失敗したら価値がない」

海斗が深くうなずいた。「まさにそれだ」

「でも、それは外在的価値です」日和が続けた。「もう一つ、内在的価値がある」

「内在的価値?」空が聞いた。

「あなたが生きているという事実そのものに宿る価値。比較や評価の外側にあるもの」

海斗が疑問を口にした。「それって、甘えじゃないですか?何もしなくても価値があるなんて」

「良い質問です」日和が微笑んだ。「内在的価値を認めることは、努力を否定することではありません」

空が理解しようとした。「どういう意味ですか?」

「むしろ、内在的価値を土台にして初めて、健全な努力ができる。失敗しても自分の価値が揺るがないから、挑戦できる」

海斗がはっとした。「逆に、外在的価値だけだと...」

「失敗が怖くなる。自己価値が失われるから」空が続けた。

日和が静かに言った。「プレゼンの失敗は、スキルの問題です。あなたという人間の価値の問題ではない」

空の目が潤んだ。「でも、それを信じるのが難しい」

「信じられなくても構いません」日和が優しく答えた。「ただ、その可能性を考えてみてください」

海斗が自分の手を見た。「俺も、テストの点じゃない価値を持ってる...?」

「持っている」日和が断言した。「あなたたちは、ここに存在するだけで、この場所を豊かにしている」

「そんな」空が否定しかけた。

「客観的事実です」日和が遮った。「今夜、あなたがいたから、私は孤独じゃなかった。海斗さんが来てくれたから、対話が深まった」

海斗が小さく笑った。「それって、価値なのか」

「最も本質的な価値です。関係性の中で生まれる価値」

空がノートに書いた。「内在的価値は、関係の中で実感される」

「そう。完全に孤立した状態では、価値を感じにくい。でも、つながりの中で、存在の意味が見えてくる」

海斗が窓の外を見た。「今夜、ここに来てよかった」

「私も」空が微笑んだ。

日和が立ち上がった。「自分の価値がわからない夜は、誰にでもある。でも、それを一緒に考えられる人がいる。それが、価値の証明です」

空が深く頷いた。今夜は、少しだけ自分の価値を感じられた気がする。

プレゼンの失敗は、明日また向き合えばいい。今は、ここにいる自分を認めよう。

夜は深いが、心は少し軽くなった。