放課後の教室。空と日和が話していると、ミラが静かに入ってきた。
「ミラさん、どうぞ」日和が席を勧めた。
ミラが座ったが、いつもより緊張している様子だった。
空が気づいた。「何か言いたいことがあるんですか?」
ミラがノートを開いたが、すぐに閉じた。躊躇している。
日和が優しく声をかけた。「焦らなくていいですよ」
しばらく沈黙が続いた。
ミラがやっと書いた。「言いたいけど、言えない」
「何が怖いんですか?」空が聞いた。
ミラが考えてから書いた。「誤解されること。理解されないこと」
日和が頷いた。「自己開示のジレンマですね」
「自己開示のジレンマ?」空が聞く。
「本当の自分を見せたい。でも、拒絶されるのが怖い」日和が説明した。「だから、表面的な会話に留まる」
ミラがじっと日和を見た。その通りだという表情。
空が考えた。「でも、表面的な会話だけだと、孤独ですよね」
「そう。だから矛盾している」日和が続けた。「理解されたいけど、理解されようとすると傷つくリスクがある」
ミラが書いた。「だから黙る」
「沈黙も一つの選択」日和が認めた。「でも、沈黙には代償がある」
「代償?」空が聞く。
「誰にも理解されない孤独。そして、誤解される可能性」
ミラが新しいページに書いた。「言葉にできない気持ちがある」
空が優しく聞いた。「例えば、どんな?」
ミラが長い時間考えた。そして書いた。「感謝している。でも、うまく伝えられない」
日和が微笑んだ。「それは今、伝わりました」
ミラが驚いた顔をした。
「完璧な言葉である必要はないんです」日和が言った。「不完全でも、伝えようとする姿勢が大切」
空が補足した。「結果より、プロセスが重要?」
「そう。コミュニケーションは、完璧な情報伝達じゃない。相互理解の試みなんです」
ミラがゆっくり書いた。「でも、言葉が足りないと、誤解される」
日和が考えた。「確かに。でも、誤解は言葉が多くても起こります」
「どうして?」空が聞く。
「受け手の解釈があるから。同じ言葉でも、人によって受け取り方が違う」
ミラが頷いた。経験があるようだ。
空が尋ねた。「じゃあ、完璧なコミュニケーションは不可能?」
「不可能かもしれません」日和が正直に答えた。「でも、近づくことはできる」
「どうやって?」
「対話を続けること。誤解があれば、また話す。理解は一度で完結しない」
ミラが書いた。「時間がかかる」
「そう。相互理解は、一瞬の言葉じゃなくて、継続的なプロセス」
空が気づいた。「だから、言えなかった言葉も、いつか言えるかもしれない」
「その通り」日和が微笑んだ。「今日言えなくても、明日言えるかもしれない」
ミラが少し安心した顔をした。
空が聞いた。「でも、言わないままだとどうなりますか?」
日和が答えた。「言葉にならなかった気持ちは、心に残り続けます。それが重荷になることもある」
ミラが書いた。「だから、少しずつ言ってみる」
「勇気ある選択です」日和が認めた。
空が提案した。「私たちで練習しませんか?言いたいことを、少しずつ」
ミラが考えた。そして書いた。「二人といると、安心する」
日和と空が微笑んだ。
「それ、とても大切な言葉です」日和が言った。
空が頷いた。「私も、ミラさんがいると嬉しいです」
ミラが微かに微笑んだ。言葉は少なくても、理解は確かに育っていた。
日和が静かに言った。「理解されたくて言えない言葉も、いつか光を見る。焦らず、少しずつ」
三人は静かに座った。完璧じゃないコミュニケーションでも、心は確かに通じていく。