「ミラさん、将来の夢は?」
レオが何気なく聞いた。
ミラが黙った。ノートに何か書こうとして、止まった。
空が気づいた。「答えにくい質問でしたか?」
ミラが小さく頷いた。
レオが興味を示す。「なぜ?夢を持つことは、自然なことでは?」
「夢がわからない」ミラが静かに言った。
空がノートを開いた。「それは、珍しいことではありません」
「多くの人が、自分の本当の願いを見失っています」
「見失う?」レオが首をかしげた。「元々あったものを?」
「そう」空が説明した。「子供の頃は、純粋な願いがあります。でも、成長する過程で、それを隠してしまう」
「なぜ隠すんですか?」
ミラがゆっくり答えた。「現実的じゃないから。馬鹿にされるから」
空が頷いた。「社会的期待と、自分の願いのギャップです」
「親や先生、周りの人が求めるものと、自分が本当にしたいことが違う」
レオが考えた。「それで、本当の願いを心の奥にしまうんですね」
「抑圧」空が言った。「心理学の重要な概念です」
「不都合な感情や欲求を、無意識の奥に押し込める」
ミラが静かに聞いている。
「でも」空が続けた。「抑圧された願いは、消えません」
「別の形で現れる。漠然とした不満、虚しさ、方向性の喪失」
レオが真剣に聞いた。「どうすれば、本当の願いを見つけられますか?」
空が提案した。「まず、自分に正直になること」
「『べき』ではなく『したい』を聞く」
ミラが書いた。「『医者になるべき』vs『絵を描きたい』」
「良い例です」空が認めた。「社会的期待と、内なる声の違い」
レオが聞いた。「ミラさん、あなたの『したい』は何ですか?」
ミラが躊躇した。長い沈黙の後、小さな声で言った。
「絵本を作りたい」
空とレオが静かに待つ。
「でも、それは非現実的」ミラが続けた。「安定した仕事じゃない」
「誰がそう言ったんですか?」レオが聞く。
「親、先生、周りのみんな」
空が優しく言った。「それは、彼らの価値観です。あなたの価値観ではありません」
「でも、無視できない」ミラが反論した。
「無視する必要はありません」空が答えた。「でも、自分の願いも無視すべきではありません」
レオが補足した。「バランスです。社会的現実と、個人の願いの両方を考慮する」
空が説明した。「自己実現理論では、真の願いを追求することが、心の健康につながります」
「抑圧し続けると、人生の満足度が下がる」
ミラが静かに聞いた。「でも、リスクが高い」
「そうです」レオが認めた。「でも、リスクを取らないことにも、代償があります」
「本当の自分を生きられない代償」
空が提案した。「今すぐ全てを変える必要はありません」
「小さく始められます。趣味として絵本を描く。少しずつスキルを磨く」
ミラが考えた。「両立できる?」
「できます」レオが断言した。「多くの人が、段階的に夢を実現しています」
空が補足した。「大切なのは、願いを認めること。心の奥から出すこと」
「抑圧したままでは、何も始まりません」
ミラがノートに書いた。「絵本作家になりたい」
文字にすると、願いは少し現実味を帯びた。
「それが第一歩です」空が微笑んだ。
レオが励ました。「願いを持つことは、恥ずかしいことではありません」
「むしろ、勇気です」
ミラが静かに言った。「ありがとう。初めて、声に出せた」
空が答えた。「心の奥にしまった願いは、見つけてもらうのを待っています」
「それを認めることが、自分らしく生きる第一歩です」
窓の外で、夕日が沈む。抑圧された願いは、ゆっくりと光の中に出てくる。