「なんか、疲れた」
日和が珍しく弱音を吐いた。
空が心配した。「体調悪いんですか?」
「体は大丈夫。でも、心が重い」
海斗が不思議そうに聞いた。「心が疲れるって、どういうこと?」
レオが説明し始めた。「精神的疲労。身体的疲労とは違う現象だ」
「違うの?」海斗が聞く。
「筋肉疲労は、物理的なダメージ。でも精神的疲労は、認知的・感情的なリソースの枯渇」
日和が頷いた。「まさにそれです。何も悪いことはないのに、ただ疲れている」
空が考えた。「何が原因なんでしょう?」
レオがノートに書いた。「認知負荷、感情労働、意思決定疲れ、など」
「感情労働?」海斗が聞いた。
日和が答えた。「本当の感情を抑えて、求められる感情を演じること。私、いつもそうしてる気がします」
空が気づいた。「日和さん、いつもみんなの話を聞いて、笑顔でいますよね」
「それが役割だと思ってた」日和が静かに言った。「でも、疲れるんです」
レオが補足した。「感情労働は、見えないけど確実にエネルギーを消費する」
海斗が考えた。「じゃあ、俺も?怒りを我慢したりすると」
「そう」レオが頷いた。「感情の制御には、認知資源が必要だ」
空が尋ねた。「他にはどんな原因がありますか?」
「決定疲れ」レオが答えた。「一日に何十、何百という小さな決定をする。それが積み重なって疲労になる」
日和が理解した。「だから、何も決められなくなる時がある」
「決定疲労の症状だ」レオが認めた。「脳のエネルギーが枯渇している」
海斗が聞いた。「でも、何もしてなくても疲れることあるよ?」
「精神的疲労は、行動量と比例しない」レオが説明した。「むしろ、内面の葛藤や不安が原因のこともある」
空が補足した。「考え続けることも、疲れるんですね」
「反芻思考」レオが言った。「同じことを繰り返し考える。それも疲労の原因だ」
日和がふと気づいた。「私、最近ずっと同じことを考えてた」
「何を?」空が優しく聞いた。
「自分の役割。みんなのために何ができるか。でも、正解が分からなくて」
レオが言った。「それが認知的負荷になっている。答えのない問題を解こうとし続けている」
海斗が提案した。「じゃあ、考えるのやめたら?」
日和が苦笑した。「それができたら楽なんですけど」
空が理解した。「考えないようにしようとすると、また疲れる」
「そう」レオが頷いた。「だから、休息の質が重要になる」
「休息の質?」海斗が聞く。
「ただ休むんじゃなくて、認知的にも感情的にも回復できる休息」レオが説明した。
日和が聞いた。「具体的には?」
「人によって違う。でも、基本は認知負荷を減らすこと。決定を減らす、感情労働を減らす、反芻を止める」
空が提案した。「何も考えなくていい時間を作る?」
「マインドフルネス的アプローチだ」レオが認めた。「思考を観察するだけで、巻き込まれない」
海斗が言った。「俺、ゲームしてる時は何も考えてない」
「それも一つの方法」レオが頷いた。「フロー状態に入ると、疲労が軽減される」
日和が考えた。「私、最近何も楽しんでなかった」
空が優しく言った。「日和さん、いつも誰かのために頑張ってますもんね」
「でも、それが私の疲労の原因かも」日和が気づいた。
レオが言った。「自己犠牲は、短期的には機能する。でも長期的には、バーンアウトを招く」
「バーンアウト…」日和が呟いた。
「燃え尽き症候群。感情的・身体的・精神的に枯渇した状態」
空が心配した。「日和さん、休んでください」
日和が微笑んだ。「休み方、忘れてたかも」
海斗が言った。「今日は何も考えない日にしよう」
レオが提案した。「認知的休息の実験だ。何も決めない、何も期待しない」
日和が少し息をついた。「それ、すごく魅力的に聞こえます」
空が頷いた。「心が疲れるのは、頑張ってる証拠。でも、休むことも大切」
四人は静かに座った。心の疲労を認めることが、回復への第一歩だった。