「もう動きたくない...でもお腹空いた」
透がベンチに倒れ込んだ。
奏が隣に座った。「運動終わったのに、なんで代謝は続くの?」
零が説明した。「基礎代謝。生きているだけで消費されるエネルギー」
「動いてなくても?」
「心臓は鼓動し、肺は呼吸し、脳は活動している」
透がうなずいた。「意識してないけど、働いてる」
「体温維持だけでも、膨大なエネルギー」零が続けた。
奏がメモした。「何に使われるの?」
「イオンポンプ。Na+/K+-ATPaseが、濃度勾配を維持する」
「ずっと?」
「常に。勾配が崩れたら、神経伝達も筋収縮もできない」
透が質問した。「寝てる時も?」
「もちろん。基礎代謝の約20%は脳が消費する」
奏が驚いた。「脳ってそんなに?」
「重さは体重の2%なのに。非常にエネルギー集約的」
零がノートに書いた。「タンパク質合成も止まらない。分解と合成が常に起きてる」
「なんで壊すの?」
「古くなったタンパク質、損傷したタンパク質を除去する」
透が理解した。「だから常に作り続ける必要がある」
「そう。細胞のリモデリング」
奏が続けた。「他には?」
「脂質合成、核酸合成、細胞分裂の準備」ミリアが加わった。
「細胞は常に準備してる?」
「恒常性の維持。環境が変わっても、内部環境を一定に保つ」
零が説明した。「これが莫大なエネルギーを要求する」
透がつぶやいた。「生きるって、エネルギーを消費し続けること?」
「熱力学的には、そう。秩序を維持するには、エントロピーに逆らう必要がある」
奏が質問した。「でも、どうやって調節してるの?」
「フィードバック制御」零が答えた。「ATPレベルが下がると、代謝が加速する」
「センサーがある?」
「AMPK。AMP活性化プロテインキナーゼ」
ミリアが補足した。「ATP/AMP比が下がると活性化される」
「それで?」
「異化作用を促進して、ATPを作る。同時に、同化作用を抑制する」
透がメモした。「エネルギーが足りない時は、作ることに集中」
「正確。優先順位がある」
奏が考えた。「逆に、ATPが多いと?」
「同化作用が活性化される。グリコーゲン合成、脂肪合成」
「貯蔵?」
「そう。余剰エネルギーを未来のために保存」
零が続けた。「だから食べないと、貯蔵を分解し始める」
透が納得した。「筋肉が落ちるのも?」
「極端な飢餓では、タンパク質も分解される。糖新生の材料として」
奏が心配した。「体が自分を食べる?」
「生存のため。脳は糖しか使えないから」
ミリアが訂正した。「ケトン体も使える。飢餓適応」
零がまとめた。「代謝は常に動的平衡状態。止まることはない」
透がつぶやいた。「死ぬまで?」
「死ぬとは、代謝が止まること」
奏が静かに言った。「代謝が止まらない理由。それは生きてるから」
零が認めた。「トートロジーだけど、真実」
ミリアが付け加えた。「生命は、エネルギーの流れ」
透が立ち上がった。「じゃあ、食べに行こう。代謝を支えるために」
三人は笑った。代謝が止まらない限り、空腹も止まらない。