「あの時、違う選択をしていれば」
晴が呟いた。昼休み、澪が隣にいた。
澪が珍しく口を開いた。「後悔してる?」
「うん。部活、辞めなければよかった」
「今からでも戻れる」
「でも...時間が経ってる」
澪が静かに聞いた。「なぜ後悔するの?」
晴が考えた。「過去を変えたいから」
「変えられない」
「わかってる。でも、考えちゃう」
蓮が近づいてきた。「反実仮想だ」
「何それ?」晴が聞く。
「もし〜だったら、という想像。現実と違う可能性を考える」
「それが後悔?」
「後悔の核心」蓮が答えた。「選ばなかった道を想像し、それが現実より良かったと思う」
澪が補足した。「でも、本当に良かったかはわからない」
「わからない?」
「選ばなかった道の結果は、想像でしかない」
晴が抵抗した。「でも、きっと良かったはず」
「なぜそう思う?」蓮が問う。
「今が嫌だから」
「後悔は、現在の不満を過去に投影してる」
晴が黙った。澪が続けた。「部活を続けていたら、別の後悔があったかもしれない」
「どんな?」
「時間がない、疲れた、成績が下がった...」
「そうかも」
蓮が哲学的に問うた。「後悔は無意味?」
「無意味じゃない」澪が珍しく強く言った。
「どうして?」
「後悔は学びのきっかけ」
晴が興味を持った。「学び?」
「何を大切にしたいか、気づかせてくれる」
蓮が頷いた。「そう。後悔は、価値観の反映だ」
「価値観?」
「君が部活を後悔するのは、それを大切だと思ってるから」
「...そうかも」
澪が静かに言った。「後悔しないものは、大切じゃない」
晴が考え込んだ。「じゃあ、後悔は悪いことじゃない?」
「程度による」蓮が答えた。「過去に囚われすぎると、前に進めない」
「でも、全く後悔しないのも?」
「無反省」澪が一言で表した。
「バランスか」
「そう。過去を振り返りながら、未来を向く」
晴がふと思った。「でも、過去は変えられない。後悔しても無駄じゃ?」
「過去は変えられない。でも、過去の意味は変えられる」蓮が言った。
「意味?」
「部活を辞めたことを、『失敗』と解釈するか、『新しい道への一歩』と解釈するか」
澪が補足した。「出来事は同じ。解釈が違う」
「解釈次第で、後悔は減る?」
「減ることもある」
晴が混乱した。「でも、それって自己欺瞞じゃ?」
「違う」蓮が答えた。「事実を変えるんじゃなく、視点を変える」
「視点...」
澪が例を挙げた。「失敗は、成長の機会でもある」
「両方の側面を見る」
「そう。片面だけ見ると、後悔が固定化する」
晴が深呼吸した。「じゃあ、私は部活を辞めたことから何を学べる?」
「自分で考えて」蓮が促した。
「...自分の限界を知った。他のことに時間を使えた」
澪が微笑んだ。「それも真実」
「でも、やっぱり寂しい」
「寂しさも認める」蓮が言った。「感情を否定しない」
「感情は残る?」
「残る。でも、支配されなくなる」
澪が窓の外を見た。「過去は変わらない。でも、私たちは変わる」
晴が少し笑った。「深いな」
「後悔は、人間だけができる」蓮が言った。
「なぜ?」
「時間を意識し、可能性を想像できるから」
「動物は後悔しない?」
「おそらく。未来も過去も、今に含まれてる」
澪が静かに言った。「後悔は、自由の証」
「自由?」
「選択できたから、後悔できる」
晴が理解した。「選択肢がなければ、後悔もない」
「そう。後悔は、自由の代償」
チャイムが鳴った。過去は変わらない。でも、未来は開いている。
「今度は後悔しない選択をする」晴が言った。
澪が首を振った。「また後悔する。それでいい」
「それでいい?」
「後悔しながら、前に進む」
蓮が微笑んだ。「それが人間だ」