「アミノ酸って、何種類?」
奏がタンパク質の本を読んでいた。
ミリアが答えた。「標準的なのは20種類」
「たった20?」
零が補足した。「でも、その組み合わせで無数のタンパク質ができる」
「組み合わせ?」
「ペプチド結合で連結される」ミリアが図を描いた。
「アミノ酸のカルボキシル基と、次のアミノ酸のアミノ基が反応する」
零が式を書いた。「-COOH + H2N- → -CO-NH- + H2O」
「水が一つ取れて、結合ができる」
奏がノートに書いた。「縮合反応」
「正確」ミリアが認めた。「この結合が繰り返されて、鎖ができる」
「どこで?」
「リボソーム。タンパク質合成の工場」
零が模型を組み立てた。「大小二つのサブユニット。RNAとタンパク質でできてる」
「RNAが酵素?」奏が驚いた。
「リボザイム。触媒活性を持つRNA」
ミリアが説明した。「リボソームは、mRNAを読みながら、アミノ酸を繋げる」
「どうやって正しいアミノ酸を選ぶ?」
「tRNA。トランスファーRNA」零が図を描いた。
「クローバー型の構造。一端にアミノ酸、もう一端にアンチコドン」
奏が理解した。「コドンとアンチコドンが対応する?」
「そう。相補的塩基対合。AとU、GとC」
ミリアが続けた。「mRNAのコドンを読んで、対応するtRNAが来る」
「tRNAは、正しいアミノ酸を運んでくる」
零が補足した。「アミノアシルtRNA合成酵素。これが、tRNAに正しいアミノ酸を付ける」
「間違えないの?」
「驚くほど正確。校正機構もある」
奏が質問した。「リボソームの中で、何が起きてる?」
ミリアが詳しく説明した。「リボソームにはA部位、P部位、E部位がある」
「A部位に新しいtRNAが入る。P部位には、伸びてる鎖を持つtRNAがある」
零が続けた。「ペプチド転移反応。P部位のペプチドが、A部位のアミノ酸に転移する」
「そして、リボソームが三つ分移動する」
奏が想像した。「ベルトコンベア?」
「良い比喩」ミリアが笑った。「mRNAがベルト。tRNAが部品を運ぶ」
「速度はどのくらい?」
零が答えた。「毎秒約20アミノ酸。速い」
「でも、正確」
ミリアが付け加えた。「エラー率は約万分の一」
奏が驚いた。「すごい精度」
「生命の精密さ」零が静かに言った。
「アミノ酸の順番が、タンパク質の機能を決める。一つ間違えるだけで、病気になることも」
奏が真剣に聞いた。「病気?」
「鎌状赤血球症。ヘモグロビンの一つのアミノ酸が変わっただけ」
ミリアが説明した。「グルタミン酸がバリンに変わった。たったそれだけで、赤血球の形が変わる」
「一つのアミノ酸が、そんなに重要?」
「タンパク質の立体構造に影響する。構造が変われば、機能も変わる」
零が整理した。「だから、リボソームの正確さが重要」
「アミノ酸が出会う場所。そこで間違えると、すべてが狂う」
奏がつぶやいた。「アミノ酸同士が、運命の出会いをしてる」
ミリアが微笑んだ。「詩的。でも、科学的にも正しい」
「各アミノ酸が、順番に出会って、手を繋ぐ。それがタンパク質」
零が付け加えた。「何百、何千ものアミノ酸が、正確に並ぶ。それが生命の奇跡」
奏がリボソームの図を見つめた。小さな工場で、今も、無数のアミノ酸が出会っている。
「出会いが、生命を作る」
「そして、生命が続く」ミリアが静かに言った。
三人は沈黙した。見えない出会いが、細胞の中で繰り返されている。