「新しい転校生、感じ悪くない?」
海斗が言った。昼休み、四人は中庭にいた。
「どうして?」空が聞く。
「挨拶しても、そっけないんだよ。きっと傲慢なんだ」
ミラがメモを書いた。「決めつけ?」
「いや、態度が明らかに...」
レオが割り込んだ。「それは認知的スキーマかもしれない」
「認知的スキーマ?」
「既存の知識や経験に基づいて、新しい情報を解釈する枠組みだ」レオが説明した。
空が補足した。「つまり、海斗くんは過去の経験から『そっけない=傲慢』というスキーマを持っている」
「それの何が問題なの?」
「そのスキーマが、現実を歪めることがある」
ミラが本を開いた。「確証バイアス」のページだった。
「確証バイアス」レオが読んだ。「自分の信念を裏付ける情報だけを集める傾向」
空が続けた。「海斗くんが『転校生は傲慢』と思い込むと、その証拠ばかり探してしまう」
「でも、実際にそっけないじゃん」
「別の解釈もあるかもしれない」レオが提案した。「例えば、恥ずかしがり屋、疲れている、文化の違い」
海斗が考えた。「確かに...転校したばかりで緊張してるのかも」
ミラが書いた。「視点変更」
「そう。自分の解釈が絶対じゃないと認めること」
空がノートに書いた。「認知的スキーマは効率的だけど、時に誤る」
「効率的?」海斗が聞く。
「すべての情報を一から処理していたら、脳が疲れる。スキーマは、素早く判断するためのショートカット」
レオが例を出した。「『犬』と聞いたら、四本足、尻尾、吠える、と即座にイメージできる。これがスキーマ」
「便利じゃん」
「そう。でも、犬には様々な種類がある。スキーマは単純化しすぎることがある」
ミラがページをめくった。「ステレオタイプ」
「ステレオタイプは、社会的スキーマだ」空が説明した。「特定の集団に対する固定観念」
「転校生=傲慢、みたいな?」
「それも一種のステレオタイプかもしれない」
海斗が反省した。「俺、偏見を持ってたのか」
「誰にでもある」レオが慰めた。「大切なのは、それに気づき、修正すること」
空が提案した。「転校生と実際に話してみたらどうですか?先入観なしに」
「でも、どうやって先入観なしに?」
「完全には無理」レオが認めた。「でも、意識することで影響を減らせる」
ミラが書いた。「オープンマインド」
「開かれた心」空が翻訳した。「自分の判断が間違っている可能性を認める」
海斗が立ち上がった。「よし、話しかけてみる」
「待って」レオが止めた。「一つアドバイス」
「何?」
「自分のスキーマを意識しながら話すこと。『この人は傲慢』という前提ではなく、『この人を知りたい』という姿勢で」
「わかった」
海斗が転校生のもとへ向かった。
空とレオとミラは、遠くから見守った。
「海斗くん、成長してますね」空が言った。
「認知的柔軟性が高まっている」レオが認めた。
ミラが微笑んだ。
しばらくして、海斗が戻ってきた。
「どうだった?」空が聞く。
「意外と話しやすかった。実は、人見知りなだけだって」
「そっけなかったのは?」
「緊張してたらしい。新しい環境で、どう接していいか分からなかったって」
レオが頷いた。「スキーマが修正されたね」
「完全に誤解してた」海斗が笑った。「思い込みって怖いな」
空がまとめた。「思い込みは、世界を単純化する。でも、同時に歪める」
ミラが書いた。「現実は複雑」
「その複雑さを受け入れることが、成長だ」レオが加えた。
海斗がノートに書いた。「人を判断する前に、自分の思い込みを疑う」
「良い教訓だ」
四人は教室に戻った。思い込みの檻から抜け出すことは難しい。でも、不可能じゃない。
「今度、転校生も誘って一緒にランチしようって約束した」海斗が嬉しそうに言った。
「素晴らしい」空が認めた。
ミラが静かに頷いた。思い込みが世界を歪める。でも、対話が世界を開く。