「さっきの会話、変じゃなかった?」
空が不安そうに聞いた。友達と別れた直後だった。
「どこが?」日和が優しく聞く。
「笑い方が、いつもと違った気がして...私、何か変なこと言ったかな」
ミラが静かに空を見ていた。
日和が説明し始めた。「それ、反すうって言います」
「反すう?」
「同じことを何度も考え続けること。特に、ネガティブな出来事を繰り返し思い出す」
空が認めた。「まさにそれ。何度も頭の中でリプレイしてる」
ミラがノートに書いた。「私も」
日和が頷いた。「多くの人が経験します。でも、過度になると問題です」
「どんな問題?」空が聞く。
「気分が落ち込む、不安が増す、集中できなくなる」
空が苦笑した。「全部当てはまってる」
日和が続けた。「反すうの背後には、いくつかの認知バイアスがあります」
「認知バイアス?」
「考え方の癖。例えば、否定的な情報に注目しやすい傾向」
ミラが書いた。「ネガティビティバイアス」
「そう」日和が認めた。「人間の脳は、良いことより悪いことをよく覚える」
空が理解した。「だから、友達の笑顔より、ちょっとした違和感が気になる」
「正確です」日和が頷いた。「進化的には、危険を記憶するほうが生存に有利だった」
ミラが新しいメモを見せた。「読心術バイアス」
日和が説明した。「他人の心を読めると思い込むこと。実際には、推測に過ぎないのに」
空が思い当たった。「あ、私、『きっと変だと思われた』って決めつけてた」
「でも、確認はしていない」日和が指摘する。
「してない...」
「それが読心術バイアス。相手の気持ちを、勝手に決めつけている」
ミラが静かに言った。「怖いから、確認できない」
日和が共感した。「そうですね。拒絶されるのが怖くて、聞けない」
空が聞いた。「じゃあ、どうすればいいの?」
日和が提案した。「まず、事実と解釈を分ける」
「事実と解釈?」
「事実は『友達の笑い方がいつもと違った』。解釈は『私が変なことを言ったからだ』」
空が理解した。「解釈は、一つじゃない」
「そうです。他の解釈もあり得る。疲れていた、別のことを考えていた、など」
ミラが書いた。「複数の可能性」
日和が頷いた。「一つの解釈に固執すると、視野が狭くなる」
空が考えた。「でも、気にしないようにするのも難しい」
「気にしないのではなく、適切に気にする」日和が説明した。
「適切に?」
「過度の心配は不健康。でも、ある程度の警戒心は必要」
ミラがメモを見せた。「バランス」
「正確」日和が認めた。「完全に鈍感になるのも問題です」
空が聞いた。「適切なラインは、どこ?」
「それは人によって違います」日和が答えた。「でも、一つの目安は、日常生活に支障が出るかどうか」
「支障...」空が考える。
「今日、他のことに集中できなかった?」
「...できなかった」
「それは、少し過剰かもしれません」
ミラが書いた。「どうやって止める?」
日和が具体的な方法を教えた。「気づきの練習。反すうが始まったら、『あ、また考えてる』と気づく」
「気づくだけ?」空が聞く。
「気づいて、意識的に注意を別のことに向ける。例えば、呼吸に集中する」
ミラが補足した。「マインドフルネス」
「そうです。今この瞬間に注意を戻す練習」
空が試してみる。深呼吸して、周りの音に耳を傾ける。
「少し、楽になった」
日和が微笑んだ。「気にしすぎの裏には、優しさと注意深さがあります」
「優しさ?」
「他者を傷つけたくない、という気持ち。それ自体は素晴らしい」
ミラが頷いた。
「でも、その優しさが自分を傷つけては意味がない」日和が続けた。
空が理解した。「バランスを取ることが大切なんですね」
「そうです。自分にも、他者にも優しく」
三人は静かに座っていた。気にしすぎることの背後には、繊細さと思いやりがある。それを否定するのではなく、適切に管理する。今日、その方法を少し学んだ。
「次から、事実と解釈を分けてみる」空が言った。
「良い試みです」日和が応援した。
ミラが微笑んだ。小さな一歩が、大きな変化につながる。