「共感するって、相手の気持ちが分かるってこと?」
春が聞いた。
乃愛が考えた。「単純ではないです」
「どういうこと?」
「共感には種類がある」澪が静かに言った。
「種類?」
乃愛が説明し始めた。「認知的共感と感情的共感」
「認知的共感は、相手の視点を理解すること。感情的共感は、相手の感情を感じること」
春が試した。「友達が悲しんでる時、その理由を理解するのが認知的共感?」
「そう。そして、自分も悲しくなるのが感情的共感」
澪が付け加えた。「同情とは違う」
「同情?」
「同情は、相手を気の毒に思うこと。共感は、相手と共に感じること」
春が理解した。「位置が違うんだ」
乃愛が頷いた。「同情は上から。共感は横から」
「でも」春が疑問を持った。「本当に相手と同じことを感じられるの?」
「哲学的には難しい問題」乃愛が認めた。
澪が静かに言った。「他者の痛みは、永遠に他者のもの」
「どういうこと?」
「私が頭痛を感じても、あなたは私の頭痛を感じることはできない」
春が驚いた。「じゃあ、共感は幻想?」
「完全な共感は不可能かもしれない」乃愛が言った。「でも、近づくことはできる」
「どうやって?」
「想像力を使う。相手の立場に立つ」
澪が補足した。「でも、想像は所詮想像」
「自分のフィルターを通してしまう」
春が考え込んだ。「じゃあ、共感するって何を共有してるの?」
乃愛がゆっくり答えた。「共有しているのは、共有しようとする姿勢かもしれません」
「姿勢?」
「相手を理解したい、という願い」
澪が頷いた。「完全には分からないと認めながら、それでも寄り添おうとする」
春が深く考えた。「でも、『分かる』って言うのは失礼?」
「時と場合による」乃愛が言った。「軽々しく『分かる』と言うのは、相手の経験を軽視することになる」
「特に、自分が経験していないことに対しては」
澪が静かに言った。「でも、完全に『分からない』と突き放すのも冷たい」
「どうすればいい?」春が聞いた。
「『分からないけど、想像しようとする』」乃愛が提案した。
「謙虚さと努力の両方」
春が例を出した。「友達が失恋して泣いてる。『分かるよ』じゃなくて?」
「『辛いよね』の方が良いかも」乃愛が言った。
「相手の感情を認める。でも、同じだとは言わない」
澪が付け加えた。「そして、話を聞く」
「共感は、言葉より態度」
春が理解し始めた。「共感って、分かることじゃなくて、分かろうとすること?」
「まさに」乃愛が認めた。
「そして、分からない部分を認めること」
澪が静かに言った。「共感の限界を知ることも、共感の一部」
春が深く頷いた。「完璧に共感できないから、努力が必要なんだ」
「そう。もし完全に分かり合えるなら、共感は必要ない」
乃愛が微笑んだ。「差異があるからこそ、繋がりが意味を持つ」
春が聞いた。「じゃあ、共感って何のため?」
「孤独を和らげるため」澪が答えた。
「誰かが自分の側にいると感じるため」
乃愛が付け加えた。「そして、自分も誰かの側にいるため」
春が静かに言った。「共感は、完全じゃないけど、必要なんだ」
「不完全だからこそ、美しい」
三人は静かに並んだ。完全には分かり合えない者たちが、それでも共にいる。