ミラが来ない。
日和が心配そうに時計を見た。「いつもなら、もう来てる時間なのに」
レオが提案した。「様子を見に行こう」
二人はミラの教室へ向かった。
ミラは机に突っ伏していた。周りの生徒はもう帰っている。
「ミラさん」日和が静かに声をかけた。
反応がない。
レオが近づいた。「ミラ?」
ゆっくりとミラが顔を上げた。目が虚ろだった。
日和が驚いた。「ミラさん...」
ミラが震える手で何か書こうとした。でも、ペンが持てない。
「無理しないで」レオが優しく言った。「話さなくていい」
日和が隣に座った。ただ、そばにいる。
しばらく沈黙が続いた。
やがて、ミラが小さな声で言った。「もう無理」
日和が静かに聞いた。「何が無理なの?」
「全部」ミラが答えた。「期待に応えること。頑張ること。生きること」
レオが真剣な表情をした。「ミラ、今とても辛い状態なんだね」
ミラが頷いた。涙が流れた。
日和が手を握った。「一人じゃないよ」
「でも、誰にも言えなかった」ミラが泣いた。「弱いと思われたくなくて」
レオが言った。「辛い時に辛いと言うのは、弱さじゃない。勇気だ」
「本当に?」ミラが見上げた。
「本当です」日和が頷いた。「助けを求めることは、生きる力です」
ミラがさらに泣いた。堰を切ったように。
日和はただ、手を握り続けた。
レオが静かに言った。「今、何が一番辛い?」
ミラが答えた。「何もできない自分」
「何もできないって、どういうこと?」
「勉強も、友達付き合いも、全部中途半端」
日和が優しく聞いた。「完璧じゃないといけないと思ってた?」
ミラが頷いた。「でも、できない。だから、価値がない」
「それは違う」レオがはっきり言った。「人の価値は、成果で決まらない」
「じゃあ、何で?」
「存在そのもの」日和が答えた。「ミラさんがいること。それ自体が価値です」
ミラが信じられない顔をした。
レオが説明した。「心が壊れそうな時、思考は歪む。全てが絶望的に見える。でも、それは一時的な状態だ」
「治るの?」ミラが聞いた。
「治るというか、変化する」日和が言った。「今が底なら、これから上がるだけ」
ミラが小さく笑った。「単純すぎない?」
「でも、真実だ」レオが認めた。「感情は波のように変化する。永遠に続く苦しみはない」
日和が提案した。「今日は、何もしなくていい。ただ休もう」
「休んだら、もっと遅れる」ミラが不安を示した。
「遅れてもいい」レオが言った。「心の健康が最優先だ」
ミラが驚いた。「そんなこと言う人、初めて」
「みんな急ぎすぎる」日和が言った。「でも、立ち止まる勇気も必要です」
ミラが深呼吸した。「何をすればいいの?」
「まず、専門家に相談しよう」レオが提案した。「カウンセラーとか」
「恥ずかしい」ミラが抵抗した。
「恥ずかしくない」日和が否定した。「むしろ、賢い選択です」
「本当に?」
「本当」レオが頷いた。「歯が痛ければ歯医者に行く。心が辛ければカウンセラーに行く。同じことだ」
ミラが考えた。「一緒に来てくれる?」
「もちろん」日和が即答した。
レオも頷いた。「サポートする」
ミラの目に、少し光が戻った。
「今日から、少しずつでいい」日和が言った。「一人で抱え込まない」
「話してくれてありがとう」レオが感謝した。「それが最初の一歩だ」
ミラが小さく頷いた。「怖いけど、やってみる」
「怖くて当然」日和が認めた。「でも、一緒だから大丈夫」
三人は保健室へ向かった。養護教諭に相談する。そこから専門家へつなぐ。
ミラが歩きながら言った。「本当に、治る?」
「時間はかかるかもしれない」レオが正直に答えた。「でも、必ず良くなる」
「信じていい?」
「信じて」日和が微笑んだ。「私たちも、ミラさんを信じてる」
ミラが涙を拭いた。心が壊れそうだった。でも、壊れなかった。支えがあったから。
窓の外で雨が降り始めた。でも、ミラの心に小さな希望が芽生えた。
「ありがとう」ミラが言った。
「どういたしまして」日和が答えた。「いつでも、そばにいるから」
レオが付け加えた。「心が壊れそうな時こそ、支えが必要だ。それを受け入れる勇気を持とう」
ミラが頷いた。一人じゃない。その事実が、今は何よりも力になった。