「ミラは、いつも壁がある」
レオの言葉に、ミラが固まった。
空と日和も、図書館の席にいた。
「壁?」ミラが小さく聞き返す。
「心の壁」レオが続けた。「近づこうとすると、距離を置く」
日和が静かに介入した。「レオさん、それは攻撃的に聞こえるかもしれません」
「攻撃じゃない」レオが言った。「ただ、理解したいだけだ」
ミラが俯いた。「壁、あるかもしれない」
空が優しく言った。「壁を作るのには、理由があるんですよね」
日和が説明を始めた。「心理的な壁は、自分を守るための防衛機制です」
「防衛機制?」レオが聞く。
「心が傷つかないように、無意識に作る保護システム」
ミラが静かに言った。「傷つきたくないから、最初から距離を取る」
「それは自然な反応」日和が認めた。「特に、過去に傷ついた経験があれば」
空がノートを開いた。「でも、壁と境界線は違いますよね」
「鋭い」日和が頷いた。「壁は、すべてを遮断する。境界線は、必要なものを選択的に通す」
レオが理解した。「壁は防御、境界線は管理」
「その通り」日和が続けた。「境界線は健康的。壁は過剰防衛かもしれない」
ミラが聞いた。「私の壁は、過剰?」
「それを判断するのは、あなた自身です」日和が優しく言った。「壁があなたを守っているなら、それは必要かもしれない」
「でも」空が付け加えた。「壁が孤独を作っているなら、見直す時期かもしれません」
ミラが考え込んだ。「孤独、感じる」
レオが謝った。「最初の言い方、きつかった。ごめん」
「いいえ」ミラが首を振った。「本当のことだから」
日和が説明した。「壁を作るのは、脆弱性を見せたくないから」
「脆弱性?」
「弱さ、不完全さ、傷つきやすさ。それらを隠そうとする」
空が補足した。「でも、脆弱性は人間らしさの証でもあります」
「完璧な人間なんていない」日和が続けた。「脆弱性を認めることで、本当の繋がりが生まれる」
ミラが小さく言った。「脆弱性を見せたら、攻撃される」
「過去に、そういう経験があったんですか?」日和が優しく聞く。
ミラが頷いた。言葉にはしなかった。
日和が理解した。「それなら、壁は必要な保護だったのかもしれません」
「でも、今は?」空が聞く。
「今も必要?」ミラが自問した。
レオが言った。「僕たちは、攻撃しない」
「どうやって信じればいい?」ミラが率直に聞いた。
「信じるのは、時間がかかる」日和が答えた。「少しずつ、試していくしかない」
空が提案した。「小さな脆弱性から始めるのはどうですか?」
「小さな脆弱性?」
「例えば、『今日は疲れた』と言ってみる。『これが分からない』と認めてみる」
日和が頷いた。「安全な環境で、少しずつ壁を下ろす練習をする」
「ここは安全?」ミラが聞く。
「完全に安全な場所はありません」日和が正直に答えた。「でも、ここはあなたを受け入れようとする人たちがいる」
レオが言った。「僕も、壁がある」
三人が驚いて見た。
「論理という壁」レオが続けた。「感情を遮断して、論理だけで話す」
「それも防衛機制」日和が理解した。
「感情を見せるのが怖い」レオが認めた。「弱さだと思われるかもしれない」
空が言った。「みんな、何らかの壁を持っているんですね」
「そう」日和が頷いた。「完全にオープンな人なんていません」
ミラが少し安心した。「私だけじゃない」
「全然」レオが言った。「人間は、みんな傷つきやすい」
日和が説明した。「大切なのは、壁の厚さと高さを調整できること」
「調整?」
「状況によって、壁を上げたり下げたりする。すべての人に同じ壁を向ける必要はない」
空が例を出した。「親しい友人には低い壁、見知らぬ人には高い壁」
「柔軟性」日和が続けた。「固定された壁は、成長を妨げる」
ミラが聞いた。「壁を下ろすのは、リスクがある?」
「あります」日和が正直に答えた。「傷つく可能性はある」
「じゃあ、なぜ下ろすの?」
「繋がるため」空が言った。「本当の繋がりは、脆弱性を共有することで生まれる」
日和が付け加えた。「リスクもあるけれど、報酬もある。理解され、受け入れられる喜び」
レオが言った。「僕も、少し壁を下ろしてみる」
「どうやって?」ミラが聞く。
「感情を言葉にする。『嬉しい』『悲しい』『不安だ』と」
日和が微笑んだ。「良い第一歩です」
ミラが考え込んだ。「私も、試してみる」
「焦らないで」日和が言った。「自分のペースで」
空がノートに書いた。「壁は悪いものではない。でも、牢獄になってはいけない」
「その通り」日和が認めた。
ミラがゆっくり言った。「今日、少し怖い」
三人が静かに待った。
「でも」ミラが続けた。「話せてよかった」
レオが微笑んだ。「それが、壁を下ろす第一歩だ」
日和が頷いた。「小さな勇気が、大きな変化を生む」
空が言った。「私たちは、お互いの壁を尊重しながら、少しずつ近づいていける」
四人は静かに図書館にいた。それぞれの壁を抱えながら、それでも繋がろうとする。完璧ではないけれど、それが人間らしさなのかもしれない。
「自分を守るための壁」ミラが呟いた。「必要な時もある」
「でも」レオが続けた。「ずっと壁の中にいる必要はない」
「時々、壁の外に出てみる」空が言った。
日和が微笑んだ。「その勇気を、お互いに支え合える」
四人の間に、静かな理解が流れた。壁があっても、繋がることはできる。ゆっくりと、自分のペースで。