「不確実性って、恋に似てる気がする」
由紀がぽつりと言った。
陸が驚いた。「急にどうした?」
「いや、なんとなく」
葵が静かに聞いた。「どういう意味?」
「相手の気持ちがわからない。それが、ドキドキする理由なのかなって」
葵が考え込んだ。「面白い視点だ。情報理論的に分析してみようか」
「できるんですか?」
「試してみよう」葵がノートを開いた。「まず、恋愛の不確実性をエントロピーで考える」
「エントロピー?」
「相手の気持ちの確率分布。好き、嫌い、どちらでもない」
陸が聞いた。「それぞれの確率は?」
「わからない。だから、エントロピーが高い」
由紀が理解した。「不確実だから、ドキドキする」
「そう。もし確実に好かれているとわかったら?」
「エントロピーはゼロ」陸が答えた。
「ドキドキはなくなる?」由紀が考えた。
「減るかもしれない」葵が慎重に言った。「でも、それは悪いことじゃない」
「なぜ?」
「安定した関係になるから」
陸が別の視点を持った。「でも、エントロピーゼロって、つまらなくない?」
「確かに。完全に予測可能な恋は、刺激がない」
由紀が聞いた。「じゃあ、適度な不確実性が良い?」
「そうかもしれない」葵が認めた。「驚きがあることで、新鮮さが保たれる」
「でも、不確実すぎるのは?」陸が聞く。
「それは不安」由紀が答えた。
「正解」葵が頷いた。「エントロピーが高すぎると、ストレスになる」
「じゃあ、最適なエントロピーは?」
「人によって違う」葵が説明した。「リスク許容度の個人差だ」
陸が考えた。「俺、高エントロピー好きかも」
「予測不可能な恋?」
「そう。ドキドキしたい」
由紀が静かに言った。「私は、低めがいいかな」
「安定志向だね」葵が微笑んだ。
「でも」由紀が続けた。「ゼロじゃない。少しは驚きたい」
「わかる」陸が賛同した。
葵が新しい概念を持ち出した。「情報ゲインという考え方がある」
「情報ゲイン?」
「新しい情報を得ることで、不確実性がどれだけ減るか」
由紀が理解した。「告白とか、デートの誘いとか」
「そう。これらは、相手の気持ちについての情報を与える」
「エントロピーが減る」
「でも、完全にはゼロにならない」葵が付け加えた。「まだ、細かい部分は不確実だから」
陸が聞いた。「じゃあ、恋って、徐々にエントロピーを減らすゲーム?」
「とも言える。でも、ゼロを目指す必要はない」
「適度な不確実性を保つ」由紀がまとめた。
「良い関係は、予測可能性と驚きのバランスだ」葵が認めた。
陸が笑った。「不確実性と恋の相性か。良いタイトルだな」
「情報理論で恋を語るなんて」由紀が照れた。
「でも、案外的確かもしれない」葵が言った。
「先輩、経験あるんですか?」陸が冗談めかして聞いた。
「それは、高エントロピーな質問だ」葵がかわした。
三人は笑った。不確実性。それは恋のスパイス。でも、適度が大事。情報理論は、そんなことまで教えてくれる。