「今日、告白しようと思ってたんだけど、やめた」
陸が部室のソファに座り込んだ。
「なぜ?」由紀が聞いた。
「成功確率が低そうだから」
葵が笑った。「確率で恋愛を判断するの?」
「だって、期待値を最大化するのが合理的じゃない?」
「面白い考え方だ」葵がノートを開いた。「じゃあ、確率思考で分析してみよう」
由紀が興味を示した。「どうやって?」
「まず、行動の選択肢を列挙する。告白する、しない。それぞれの結果と確率を考える」
陸が真剣になった。「告白したら、成功か失敗。成功確率は…20パーセントくらい?」
「低いね」由紀が同情した。
「でも」葵が続けた。「成功したときの効用はどれくらい?」
「効用?」
「幸福度、満足度。数値化してみて」
陸が考えた。「成功したら、幸福度プラス100。失敗したら、マイナス30。告白しなかったら、ゼロ」
葵が計算した。「告白する期待値は、0.2×100 + 0.8×(-30) = 20 - 24 = -4」
「マイナスだ…」陸が落ち込んだ。
「だから告白しない方が合理的?」由紀が聞いた。
その時、ミラが静かに話した。「Time discount missing」
「時間割引?」葵が理解した。「そうだ、陸。将来の情報も考慮すべきだ」
「将来の情報?」
「今告白しなくても、時間が経てば成功確率が上がるかもしれない。逆に、他の人に取られるリスクもある」
陸が頭を抱えた。「複雑すぎる…」
葵が優しく言った。「実は、確率思考には限界がある。全ての要素を数値化できるわけじゃない」
「じゃあ、確率思考って役に立たないの?」由紀が聞いた。
「いや、役に立つ。でも完璧じゃない」葵が説明した。「確率思考の価値は、答えを出すことじゃなく、考えるフレームワークを提供すること」
ミラがノートに書いた。「Structure thinking, not replace feeling」
「そう。確率的に考えることで、選択の構造が見える。でも、最終的な決断には、感情や直感も必要だ」
陸が立ち上がった。「じゃあ、やっぱり告白する」
「期待値マイナスなのに?」由紀が驚いた。
「期待値だけじゃない。後悔しないという価値もある」
葵が微笑んだ。「良い判断だ。後悔の最小化も、一つの合理性だ」
「それも確率思考?」陸が聞いた。
「広義にはね。ミニマックス後悔と言って、最悪の後悔を最小化する戦略がある」
陸が部室を出ようとした時、ミラが小さなメモを渡した。
「Courage = information you can't quantify」
陸が笑った。「勇気は数値化できない情報、か」
「確率思考で青春するのは良いけど」由紀が言った。「全部を計算しちゃうと、青春っぽくないかも」
「バランスが大事だね」葵が認めた。「確率的に考えつつ、時には非合理的に行動する」
陸が扉の前で振り返った。「先輩たち、結果を確率的に予測して」
「分からない」葵が正直に答えた。「それが青春の面白さだ」
「不確実性を楽しむ」由紀が呟いた。
「そう。確率思考は、不確実性を受け入れるための道具だ」
陸が去った後、三人は窓の外を見た。
「彼の告白、成功確率は?」由紀が聞いた。
「主観確率だけど」葵が考えた。「30パーセントくらい?」
ミラが首を横に振った。「50 percent」
「ミラは楽観的だね」
「Hope updates prior」ミラが小さく微笑んだ。
由紀が笑った。「希望が事前確率を更新する、か。それも確率思考だね」
「確率思考で青春する」葵がまとめた。「計算しつつ、感じる。データと直感の両方を使う」
「バランスの取れた生き方」由紀が言った。
三人は、確率と感情の間で揺れる青春を、静かに見守った。