「日和さん、最近疲れてませんか?」
空が心配そうに聞いた。いつも元気な日和が、今日は少し覇気がない。
「大丈夫です」日和が笑顔を作った。でも、その笑顔は少し弱々しい。
海斗が飲み物を持ってきた。「無理してる顔だよ、それ」
日和がため息をついた。「バレてますね」
「何かあったんですか?」空が優しく促す。
「クラスの文化祭の準備、ほとんど私一人でやってるんです。でも、誰も気づいてくれなくて…」
「それは辛い」海斗が共感した。
日和が続けた。「装飾も、スケジュールも、全部私が調整してる。でも、当日はみんな楽しむだけで、準備したことには誰も触れない」
空がノートに書いた。「気づかれない努力の重さ」
「そんな大げさなものじゃ…」
「いや、大げさじゃない」海斗が言った。「俺も、部活の雑用ばっかりやってた時、同じ気持ちだった」
空が説明し始めた。「心理学では、努力が認められないことは、大きなストレス要因です」
「なぜ?」日和が聞く。
「人間は、社会的な承認を必要とする生き物だから」空が答えた。「特に、貢献が見えにくい仕事は、評価されにくい」
海斗が例を出した。「清掃とか、準備とか、裏方の仕事って、目立たないよね」
「でも、それがないと全体が回らない」日和が言った。
「そう。だから余計に、認められないと虚しくなる」空が頷いた。
日和が聞いた。「でも、認められるために努力してるわけじゃないんです。必要だからやってる。それでも、辛いのはなぜでしょう?」
空が考えた。「内発的動機と外的報酬のバランスかもしれません」
「内発的動機?」
「やること自体が満足だという動機。認められなくても、やりがいを感じる」
「でも、私は…」
「内発的動機だけで、ずっと続けるのは難しい」海斗が言った。「時々は、『ありがとう』って言われたい」
空が補足した。「それは自然な欲求です。完全に無視されると、モチベーションは下がります」
日和が静かに言った。「最初は、純粋に役立ちたいと思ってた。でも最近は、認められないことが辛くて…」
「それでバーンアウトしかけてる」空が診断した。
「バーンアウト?」
「燃え尽き症候群。過度な努力が報われず、疲弊してしまう状態」
海斗が聞いた。「どうすればいいんだ?」
空が提案した。「まず、自分の努力を可視化すること」
「可視化?」日和が首をかしげた。
「準備の作業リストを、みんなに見せる。誰が何をやったか、明確にする」
「でも、それって自己アピールみたいで…」
「違う」海斗が言った。「透明性は、組織運営の基本だ。隠れた努力は、評価されようがない」
空が続けた。「そして、助けを求めることも大切です」
「助け?」
「全部一人でやろうとしないで、タスクを分担する。『これ、手伝ってもらえますか』と頼む」
日和が躊躇した。「でも、他の人は忙しそうで…」
「それは思い込みかもしれない」空が指摘した。「頼まれないと、何をすればいいか分からない人もいる」
海斗が笑った。「俺がそうだ。言われればやるけど、言われないと気づかない」
日和が少し楽になった。「確かに、一人で抱え込んでいたかもしれません」
空が最後に言った。「そして、自分で自分を認めることも忘れずに」
「自分で?」
「他人が認めてくれなくても、自分は自分の努力を知っている。『よくやった』と自分に言う」
海斗が頷いた。「自己承認。難しいけど、大事だよな」
日和が微笑んだ。「ありがとう。少し、気が楽になりました」
「明日から、タスクリスト作ってみます」
空が励ました。「それがいいです。そして、遠慮なく頼ってください」
「私も手伝うよ」海斗が宣言した。
窓の外で、夕日が沈んでいく。気づかれない努力は重い。でも、それを軽くする方法はある。一人で抱え込まず、見えるようにして、そして自分自身を認める。
日和が静かに言った。「今日、話せて良かった」
小さな一歩が、重荷を軽くし始めていた。