「考えることで、人は変わる?」
晴が放課後の教室で聞いた。
「間違いなく」レンが即答した。
「でも、どう変わるの?」
レンが考えた。「視点が変わる。世界の見え方が変わる」
美緒が静かに本を閉じた。
「美緒も、変わった?」晴が聞く。
美緒が小さく頷いた。
「どう変わったか、言葉にできる?」
美緒は首を振った。そして、ノートに一行書いた。
「『静かになった』」晴が読む。
レンが解釈した。「思考を深めることで、内面が落ち着いた?」
美緒が頷く。
「それって、良いこと?」晴が疑問を持つ。
「良い悪いではない」レンが言った。「変化そのものが、意味を持つ」
「変化の意味?」
「以前の自分と、今の自分が違う。それが成長だ」
晴が考え込んだ。「でも、変わりすぎると、自分じゃなくなる?」
「アイデンティティの問題だ」レンが頷いた。「どこまで変わっても、まだ『自分』と言えるか」
美緒がまた書いた。
「『川のように』」
「川?」晴が読む。
レンが説明した。「川は常に流れている。同じ水は二度と通らない。でも、川は川だ」
「変わり続けるけど、同じ?」
「そう。アイデンティティは、連続性にある。固定した実体ではない」
晴が驚いた。「じゃあ、どんなに変わっても、私は私?」
「記憶と物語が連続していれば」
「物語?」
「自分の人生を、一つの物語として認識すること」レンが説明した。「過去、現在、未来が繋がっている」
晴がノートに書いた。「自己は物語」
「ナラティブ・アイデンティティと呼ばれる」
美緒が立ち上がり、窓を開けた。風が入る。
「今、何か言った?」晴がレンに聞く。
「『変化を受け入れろ』かもしれない」レンが微笑んだ。
晴が真剣に聞いた。「考えることで、どう変わりたい?」
「自分で決めることだ」レンが答えた。「変化の方向性は、自分で選べる」
「選べるの?」
「ある程度は。何を考えるか、何を読むか、誰と話すか。それが変化の方向を決める」
晴が窓の外を見た。「じゃあ、今この会話も、私を変えてる?」
「確実に」
「どう変わってるか、分かる?」
「今は分からない」レンが認めた。「でも、数ヶ月後、振り返ると気づく」
美緒が二人の方を向いた。そして、小さく微笑んだ。
晴が聞いた。「美緒は、もっと変わりたい?」
美緒は首を振った。そして、ノートに書いた。
「『変わり続けるだけ』」
レンが感心した。「変わることを目的にしない。自然に変わる」
「目的なしの変化?」
「道教や禅の考えに近い」レンが説明した。「無為自然。作為なく、自然に従う」
晴が混乱した。「でも、さっき方向性を選ぶって」
「矛盾している」レンが認めた。「意図的な変化と、自然な変化。両方ある」
「どっちが良い?」
「両方必要」
美緒が頷いた。
晴が深呼吸した。「考えることで変わる自分、怖くない?」
「怖いと感じるか、楽しいと感じるか」レンが言った。
「レンは?」
「楽しい。新しい自分に出会えるから」
「美緒は?」
美緒が書いた。「『興味深い』」
晴が笑った。「みんな前向きだね」
「変化を恐れても、変化は起きる」レンが言った。「なら、楽しむ方がいい」
「じゃあ、私も楽しむ」
「良い選択だ」
美緒が立ち上がり、ドアに向かった。去り際、振り返って一言。
「また会おう」
「また、って?」晴が驚く。
「変わった自分に、また会おう」レンが解釈した。
晴が目を輝かせた。「次会うとき、私たちは違う人?」
「少し違う。でも、繋がっている」
美緒が頷いて、去った。
晴がレンに聞いた。「考えることで変わる自分、それが成長?」
「成長は、変化の一つの形だ」レンが答えた。「良い方向への変化」
「良い方向って?」
「それも、自分で決める」
晴が窓の外を見た。夕日が沈んでいく。明日はまた、違う日だ。
「考え続けよう」晴が呟いた。
「そして、変わり続けよう」レンが応えた。
二人は黙って教室を出た。変わり続ける自分に、会いに行く。