「ミラさん、それ、詐欺じゃないですか?」
空が心配そうに言った。ミラがスマホで見ていた広告を覗き込んで。
「え?でも、みんな良いって言ってる」
レオが画面を見た。「誰が『みんな』だ?」
「レビューに、たくさん星がついてる」
空がため息をついた。「レビューは、操作できますよ」
ミラが驚いた。「嘘のレビュー?」
「サクラと呼ばれる。業者が雇った人が、良い評価を書く」レオが説明した。
「でも、どうやって見分けるの?」
空がノートを開いた。「クリティカル・シンキング。批判的思考です」
「批判的?」
「疑って考えるということ」レオが補足した。「すぐに信じず、証拠を求める」
ミラが少し悲しそうになった。「でも、人を疑うって、悲しくないですか?」
「疑うことと、信じないことは違う」空が優しく言った。
「どう違うの?」
「疑うのは、確認すること。盲目的に信じるのではなく、根拠を求める」
レオが例を出した。「友達が『駅前に新しいカフェができた』と言ったら、信じる?」
「信じる」ミラが答えた。
「でも、『そのカフェで奇跡の薬を売ってる』と言ったら?」
「それは…怪しい」
「なぜ?」空が聞く。
「奇跡の薬なんて、ないと思うから」
「そう。それがクリティカル・シンキングだ」レオが頷いた。「常識と照らし合わせて、おかしい点を見つける」
空が続けた。「ミラさんは、人を信じやすい傾向がありますね」
「それって、悪いこと?」
「悪くはない」レオが言った。「でも、リスクはある」
「リスク?」
「騙されやすい。利用されやすい」
ミラが考えた。「確かに、前にも変なセールスに引っかかりそうになった」
空が聞いた。「なぜ信じてしまったんですか?」
「その人が、優しそうだったから」
「外見や態度で判断した」レオが指摘した。「でも、詐欺師は魅力的に見せるのが上手い」
「じゃあ、誰も信じられない?」ミラが不安そうに言った。
「そうじゃない」空が慌てて否定した。「適切なレベルの信頼が大切なんです」
「適切なレベル?」
レオが説明した。「信頼は、関係性と実績に基づくべきだ。初対面の人に、全てを信じるのは危険」
「でも、友達だって、最初は初対面だった」ミラが反論した。
「その通り」空が認めた。「だから、少しずつ信頼を築いていくんです」
「小さなことから始めて、相手の行動を観察する」レオが続けた。「約束を守るか、嘘をつかないか」
ミラがノートを見た。「段階的な信頼」
「そう。いきなり全面的に信じるのではなく、徐々に」
空が補足した。「そして、疑問を持つことを恐れないでください」
「疑問?」
「『なぜこれが本当だと言えるのか』『証拠はあるのか』と自問する」
レオが例を示した。「さっきの広告。『効果がある』と書いてある。でも、科学的根拠は?臨床試験は?」
ミラが画面をもう一度見た。「書いてない…」
「それが答えだ」
空が優しく言った。「信じたい気持ちは分かります。でも、その前に立ち止まって考える癖をつけましょう」
「どうやって?」
レオが提案した。「簡単なルール。大きな決定や購入の前に、一晩待つ」
「一晩?」
「そう。衝動的に信じるのを防ぐ。時間をおくと、冷静に判断できる」
空が追加した。「そして、信頼できる第三者に相談する。私たちのような」
ミラが微笑んだ。「ありがとう。二人は、信頼できる」
「それは嬉しい」レオが言った。「でも、私たちの言うことも、完全に鵜呑みにしないでほしい」
「え?」
「自分で考える力が、一番大切だ」
空が頷いた。「権威や友達の言葉も、検証する姿勢を持つ」
ミラが真剣な顔をした。「難しいけど、大切ですね」
「最初は難しい」レオが認めた。「でも、練習すれば身につく」
窓の外で、日が傾く。信じることは美しい。でも、盲目的な信頼は危険だ。疑問を持ち、考え、そして信じる。その過程が、真の信頼を築く。
ミラが静かに言った。「今度から、ちゃんと考えてから信じます」
「良い決断だ」レオが微笑んだ。
「そして、困ったら相談する」ミラが付け加えた。
空が温かく見守る。「いつでも」
信じすぎる人の心は、純粋だ。でも、その純粋さを守るためにも、クリティカル・シンキングは必要だった。