「今日、変な偶然があった」
由紀が話し始めた。
「どんな?」陸が聞いた。
「駅で知らない人とぶつかって、その人が転校生だったの。明日、うちのクラスに来るって」
葵が興味を持った。「面白い偶然だね」
「偶然なのかな」由紀が考えた。
「確率的には、どうなんですか?」
葵が計算を始めた。「駅の人数、転校生の数、クラスの人数...」
「かなり低い確率だね。でも、ゼロじゃない」
陸が割り込んだ。「低い確率でも、起こるときは起こる」
「それがランダムさの本質だ」
由紀が質問した。「でも、奇跡って呼んでいいんですか?」
「主観的にはね。確率が低い事象が起こると、特別に感じる」
葵が説明した。「情報量は、I(x) = -log₂(p)。確率pが低いほど、情報量が大きい」
「だから、稀な出来事は記憶に残る」
陸が例を出した。「宝くじに当たるとか」
「確率は極めて低い。でも、誰かは当たる」
「全体で見れば、必然」
由紀が考えた。「じゃあ、私の出会いも、誰かには起こるはずだった?」
「統計的にはそう」
葵が続けた。「でも、それが君だったことに意味がある」
「ランダムネスは、誰に起こるかを選ばない」
陸が質問した。「ランダムって、本当にランダムなの?」
「哲学的な問いだね」
葵が考えた。「量子力学では、真の乱数が存在する」
「でも、日常の偶然は、複雑な因果の結果かもしれない」
「決定論的カオス。初期条件が少し違えば、結果が大きく変わる」
由紀がノートに書いた。「じゃあ、私がその時間に駅にいたのも、何かの因果?」
「遡れば、無数の選択の積み重ね」
「朝、何時に起きたか。どの電車に乗ったか」
陸が笑った。「バタフライ効果だ」
「小さな変化が、大きな結果を生む」
葵が補足した。「でも、それを全部追跡するのは不可能」
「だから、ランダムとして扱う」
「確率モデルで近似する」
由紀が質問した。「偶然と必然、どっちが本当なんですか?」
「両方だ」葵が答えた。
「視点によって変わる」
「全知の視点なら、全ては必然。でも、限定された知識しかない私たちには、ランダムに見える」
陸が深く頷いた。「だから、確率論が必要なんだ」
「不確実性を扱う数学」
葵が新しい視点を出した。「期待値という概念がある」
「E(X) = Σ x・p(x)。確率変数の平均」
「何度も試行すれば、期待値に近づく」
由紀が考えた。「じゃあ、私が何度も駅に行けば、また偶然が起こる?」
「期待値的には、いつかは起こる」
「でも、同じ偶然ではない」
陸が言った。「それぞれの偶然は、一回きりだ」
「ユニークなんだよ」
葵が微笑んだ。「だから、偶然は特別なんだ」
「再現できないから、価値がある」
由紀がまとめた。「ランダムさが、出会いを運んでくる」
「計画できない、予測できない」
「でも、だからこそ奇跡に感じる」
陸がふと聞いた。「じゃあ、俺たちの出会いも、ランダム?」
「情報理論部に入るという選択は?」
葵が答えた。「部分的にはランダム。でも、部分的には必然」
「君たちの性格、興味、偶然の掲示を見たタイミング」
「全てが重なって、ここにいる」
由紀が窓の外を見た。「無数の偶然が、今を作ってる」
「そして、今がまた、未来の偶然の種になる」
陸が笑った。「なんか、ロマンチックだな」
「ランダムさが運んできた奇跡」
葵が締めくくった。「確率論は、冷たい数学に見える」
「でも、その背後には、人生のドラマがある」
「偶然と必然、ランダムと意味」
「その境界で、私たちは生きている」
三人は静かに頷いた。
明日、新しい偶然が、また誰かを運んでくる。それもまた、ランダムさの奇跡だ。