「好きって言えないんだよな」
海斗がぼそっと呟いた。
空が驚いて聞く。「誰かに?」
「いや、一般論として」海斗が慌てて否定する。
日和が優しく言った。「愛情表現が苦手なんですね」
「苦手っていうか...恥ずかしいし、どう言えばいいかわからない」
空が理解した。「わかる。私もそういうところある」
日和が説明し始めた。「愛情表現のスタイルは、人によって大きく異なります」
「スタイル?」海斗が聞く。
「ゲイリー・チャップマンという心理学者が、愛の言語という概念を提唱しました」
空が興味を示した。「愛の言語?」
「愛情を表現し、受け取る五つの方法です」日和がノートに書いた。
「1. 肯定的な言葉」 「2. クオリティタイム」 「3. 贈り物」 「4. サービス行為」 「5. 身体的接触」
海斗が読んだ。「これ全部、愛情表現?」
「そうです。人は、この中の一つか二つを主に使う傾向があります」
空が考えた。「私は多分、クオリティタイム。一緒に時間を過ごすことが大切」
「海斗くんは?」日和が聞く。
「俺...多分、サービス行為?何かしてあげたいと思う」
「良い気づきです」日和が認めた。「でも、相手が同じ言語を使うとは限りません」
空が理解した。「だから、すれ違う」
「そうです。言葉で言ってほしい人と、行動で示す人では、伝わらない」
海斗が納得した。「だから、俺が手伝っても、相手は『好き』って言ってほしいのかもしれない」
「正確」日和が頷いた。
空が聞いた。「でも、なぜ人によって違うの?」
「育った環境が影響します」日和が説明した。「愛着理論という考え方があります」
「愛着理論?」
「幼少期の養育者との関係が、大人になってからの愛情パターンに影響するという理論です」
海斗が真剣に聞く。
日和が続けた。「例えば、親が言葉で愛情を表現しなかった場合、子どもも言葉での表現が苦手になりやすい」
「俺の親、確かにそうだった」海斗が思い出す。「『好き』とか言わない家だった」
「だから、あなたも言葉での表現に抵抗があるのかもしれません」
空が付け加えた。「でも、行動では示してくれてたんじゃない?」
海斗が考える。「...そう言われれば、いつも手伝ってくれてた」
「それが、あなたの愛の言語になったんですね」日和が説明した。
海斗が少し安心した顔をした。「じゃあ、俺が悪いわけじゃないんだ」
「良いも悪いもありません」日和が強調した。「ただ、違いを理解することが大切です」
空が聞いた。「じゃあ、どうすればうまく伝えられるの?」
「相手の愛の言語を学ぶこと」日和が答えた。「そして、時には自分の得意じゃない方法も試してみる」
「苦手なこともやるの?」海斗が不安そうに聞く。
「完璧である必要はありません。でも、努力する姿勢自体が、愛情の証明になります」
空が理解した。「相手のために、頑張るってこと」
「そうです。それも、サービス行為の一種ですね」日和が微笑んだ。
海斗が決意した顔をした。「わかった。次は、ちゃんと言葉でも伝えてみる」
「良いですね」日和が応援した。「最初は照れくさいかもしれませんが」
「めちゃくちゃ照れくさいと思う」海斗が笑った。
空が提案した。「練習してみる?今ここで」
「えっ、無理」海斗が拒否する。
「ほら、やっぱり苦手だ」空が笑う。
日和が静かに言った。「でも、その苦手と向き合おうとしていること自体が、成長です」
海斗が少し真剣になった。「ありがとう、日和さん」
「どういたしまして」
空が付け加えた。「愛情表現に正解はない。大切なのは、伝えようとする気持ち」
海斗が頷いた。「そうだな。完璧じゃなくてもいい」
日和が最後に言った。「愛情表現は、スキルです。練習すれば上達します」
「スキルか」海斗が考える。「じゃあ、少しずつ練習してみる」
三人は窓の外を見た。愛情表現の形は様々。でも、その根底にあるのは、相手を大切に思う気持ち。それを忘れなければ、きっと伝わる。
「今日、勉強になった」海斗が言った。
「お互い様だよ」空が笑った。
愛情表現がうまくできない理由。それは、方法を知らないだけかもしれない。そして、方法は学べる。