「どうして、言えないんだろう」
ミラが悔しそうにノートに書いた。部室で、グループ課題の方針を決める会議があった。
空が聞いた。「何がですか?」
「自分の意見。みんな話してる。私は黙ってた」
日和が優しく言った。「それは辛かったですね」
海斗が入ってきた。「何の話?」
「自己主張について」空が答えた。
海斗が座った。「俺、めっちゃ言うけど」
「それは分かります」日和が微笑んだ。
空が説明を始めた。「アサーティブネス。自分の権利を尊重しながら、相手の権利も尊重する自己主張」
ミラが書いた。「難しい」
日和が聞いた。「何が難しいですか?」
「言ったら、嫌われる気がする」
海斗が反応した。「なんで?意見言っただけで嫌うやつ、おかしいだろ」
「でも」ミラが書いた。「否定されたら、傷つく」
空が理解した。「拒絶への恐れですね」
日和が説明した。「自己主張できない理由はいくつかあります。拒絶の恐れ、対立の回避、自己評価の低さ」
ミラが頷いた。「全部当てはまる」
空が聞いた。「子供の頃、意見を言った時、どんな反応がありましたか?」
ミラが考えた。長い沈黙の後、書いた。「無視された。時には怒られた」
「それは辛い経験です」日和が共感した。
海斗が真剣になった。「それで、言わなくなったんだ」
「学習性無力感かもしれません」空が説明した。「何をしても無駄だと学習してしまう」
ミラが書いた。「変えられる?」
「変えられます」日和が断言した。「でも、時間と練習が必要です」
空が提案した。「まず、自分の権利を認識してください」
「権利?」
「意見を持つ権利。それを表現する権利。間違える権利」
海斗が補足した。「そうだよ。みんな間違えるんだから」
ミラが書いた。「でも、どう言えばいい?」
日和が説明した。「アサーティブな表現には、公式があります」
「I-メッセージ。『私は〜と感じる』という形」
空が例を挙げた。「『あなたが間違ってる』ではなく、『私は違う見方をしている』」
海斗が聞いた。「違いは?」
「前者は攻撃的。後者はアサーティブ」日和が答えた。
「攻撃的、受動的、アサーティブの三つのスタイルがあります」空が説明した。
ミラが書いた。「受動的は私」
「そうかもしれません」日和が認めた。「受動的な人は、自分の意見を抑える。対立を避けるために」
「でも、それは長期的には健康的じゃない」空が言った。
海斗が考えた。「俺は攻撃的かも。ガンガン言うし」
「攻撃的な人は、自分の権利を主張するけど、相手の権利を無視します」日和が説明した。
「アサーティブは、両方のバランス」空が続けた。
ミラが聞いた。「どう練習する?」
日和が提案した。「小さな一歩から。低リスクの状況で」
「例えば?」
「カフェで注文を間違えられた時、『すみません、私が頼んだのは違います』と言う」
海斗が言った。「それくらい、簡単じゃん」
「ミラさんには、大きな一歩かもしれません」日和が優しく指摘した。
空が補足した。「成功体験を積むことが重要です。一度できたら、次が楽になる」
ミラが書いた。「失敗したら?」
「失敗も学びです」空が答えた。「完璧に言う必要はありません」
日和が加えた。「大切なのは、言おうとしたこと。結果ではありません」
海斗が提案した。「俺たちで練習する?ロールプレイとか」
ミラが驚いた。「本当に?」
「もちろん」日和が微笑んだ。「安全な環境で練習しましょう」
空が設定した。「じゃあ、状況設定。海斗さんが、ミラさんの意見を遮る。ミラさんは、自己主張する」
ミラが緊張した。でも、頷いた。
海斗が始めた。「だから、この方法が一番いいんだって」
ミラが書いた。でも、声に出さない。
日和が促した。「声に出してみて」
ミラが小さく言った。「私は...違う方法を...」
海斗がわざと遮った。「いや、聞いて」
ミラが止まった。
空が励ました。「もう一度。今度は、『待ってください』と言ってみて」
ミラが深呼吸した。「待ってください」
海斗が止まった。
「私には、違う意見があります」ミラが続けた。声が震えている。
「良いです」日和が認めた。「完璧です」
ミラが驚いた。「本当に?」
「意見を言いました。それが第一歩」空が微笑んだ。
海斗が真面目に言った。「ミラ、お前の意見、聞きたいよ。いつも黙ってるから、分かんないんだ」
ミラが書いた。「嫌じゃない?」
「全然」海斗が断言した。「むしろ、みんなの意見聞きたい」
日和が付け加えた。「自己主張は、自己中心的ではありません。健康的なコミュニケーションです」
空が最後に言った。「自分の声を持つ権利があります。それを使ってください」
ミラが頷いた。「少しずつ、やってみる」
「それでいいんです」日和が認めた。
海斗が立ち上がった。「次の会議、ミラの意見、絶対聞くから」
ミラが小さく微笑んだ。「ありがとう」
部室に、新しい決意が満ちた。自分の意見を言う。簡単じゃない。でも、不可能じゃない。
一歩ずつ、声を取り戻していく。