「くそっ!」
海斗が教室の机を叩いた。周りの視線が集まる。
レオが冷静に聞いた。「何があった?」
「何でもない」海斗が吐き捨てるように言った。
空が心配そうに見ている。海斗の怒りは、最近頻繁に爆発する。
放課後、部室で三人は向き合った。
「海斗、話そう」レオが言った。
「話すことなんてない」
「でも、怒りを爆発させ続けるのは良くない」空が優しく言った。
海斗が黙り込んだ。しばらくして、ため息をついた。
「自分でも分からないんだ。些細なことで、いきなりキレる。コントロールできない」
レオが観察的に言った。「怒りが爆発する瞬間、何を感じている?」
海斗が考えた。「頭が真っ白になる。体が熱くなる。そして、気づいたら怒鳴ってる」
空がノートに書いた。「それは生理的な反応ですね」
レオが説明した。「怒りは、進化的に重要な感情だ。脅威に対する防衛反応」
「脅威?誰も俺を攻撃してないけど」
「物理的な脅威だけじゃない」空が補足した。「心理的な脅威、例えば自尊心が傷つけられたとか」
海斗が思い当たった。「確かに、馬鹿にされたと感じた時に怒る」
レオが続けた。「怒りには段階がある。最初は小さなイライラ。それが蓄積して、閾値を超えると爆発する」
「閾値?」
「限界点」空が説明した。「コップに水が溜まっていくイメージ。最後の一滴で溢れる」
海斗が理解した。「だから、些細なことでキレるんだ。もう限界まで溜まってたから」
「そう」レオが認めた。「表面的な原因と、本当の原因は違う」
空が聞いた。「じゃあ、どうすればいいんですか?」
レオが提案した。「まず、怒りの前兆に気づくこと。体のサインを認識する」
「体のサイン?」
「心拍が上がる、呼吸が浅くなる、筋肉が緊張する」空が列挙した。「爆発する前に、これらの変化がある」
海斗が真剣に聞いている。
「その段階で、一度止まる」レオが言った。「深呼吸、その場を離れる、10まで数える」
「それだけで効くの?」海斗が疑問を持った。
「完璧じゃないけど、爆発を防げる可能性は高まる」空が答えた。「感情の波には、ピークがある。少し時間を置けば、自然と下がる」
レオが付け加えた。「そして、根本的な原因に対処する必要がある」
「根本的な原因?」
「なぜイライラが溜まっているのか」空が問いかけた。「睡眠不足?対人関係?プレッシャー?」
海斗が考え込んだ。「全部かもしれない」
「一つずつ対処していこう」レオが励ました。
空が実践的な提案をした。「怒りの日記をつけるのはどうですか?いつ、何に、どれくらい怒ったか」
「それで何が分かるの?」
「パターンが見える」レオが説明した。「特定の人、状況、時間帯。そこから対策を立てられる」
海斗が少し前向きになった。「やってみる」
空が言った。「怒りは悪い感情じゃないんです。警告システムとして重要」
「警告システム?」
「何かが間違っている、というサイン」レオが補足した。「境界線が侵害されたとか、不公平な扱いを受けたとか」
「でも、表現方法が問題なんですね」海斗が理解した。
「そう」空が頷いた。「怒りを感じることと、怒りを爆発させることは別」
レオが最後に言った。「アサーティブに伝える方法を学べば、怒りを建設的に使える」
海斗が初めて笑った。「俺、まだ変われるかな」
「もちろん」二人が同時に答えた。
空が優しく言った。「自分の怒りに気づいたことが、もう第一歩です」
レオが付け加えた。「完璧になる必要はない。少しずつ、制御できる範囲を広げていけばいい」
海斗がノートを取り出した。「今から記録してみる」
「いいね」空が励ました。
三人は静かに座っていた。怒りは消えないけれど、それとの付き合い方は学べる。海斗の旅は、今日から始まった。