「あいつ、いつも何でもうまくいってるよな」
海斗がため息をついた。SNSで同級生の投稿を見ていたらしい。
「羨ましいの?」空が聞く。
「羨ましいっていうか...悔しいっていうか」
日和が静かに言った。「それは自然な感情ですよ」
「でも、こういう気持ちって、良くないよね」海斗が自己嫌悪気味に言う。
「なぜ良くないと思うんですか?」日和が聞き返す。
「だって、人を羨むなんて、心が狭いって感じがする」
空が補足した。「社会的比較は、人間の基本的な心理プロセスだよ」
「社会的比較?」
日和が説明し始めた。「心理学者のフェスティンガーが提唱した理論。人は、自分を評価するために、他者と比較する」
「みんなやってるってこと?」
「そうです。自分の能力や状況を知るには、何かと比べる必要がある」
ミラがノートに書いて見せた。「上方比較・下方比較」
「上方比較は、自分より優れた人と比べること。下方比較は、自分より劣った人と比べること」空が説明する。
海斗が考えた。「さっきのは、上方比較だ」
「上方比較は、二つの反応を引き起こします」日和が続けた。「インスピレーションか、嫉妬か」
「インスピレーション?」
「『あの人みたいになりたい』という前向きな動機。これは成長につながる」
空が付け加えた。「でも、『あの人は良くて、自分はダメだ』と思うと、嫉妬になる」
「俺は後者だな」海斗が認めた。
日和が優しく言った。「それは、自尊心が傷ついているサインです」
ミラが書いた。「なぜ傷つく?」
「良い質問」日和が頷いた。「羨望の背後には、『自分には足りないものがある』という認識がある」
空が分析する。「つまり、羨ましさは、自分が何を大切にしているかを教えてくれる」
海斗が目を見開いた。「どういうこと?」
「海斗くんが羨ましいと思うものは、海斗くんが欲しいもの。それがわかれば、目標が見える」
日和が続けた。「嫉妬は、不快な感情です。でも、それは自己理解の手がかりにもなる」
海斗が考え込む。「確かに、俺が羨ましいのは、あいつの社交性なんだよな」
「ということは?」空が促す。
「俺も、もっと人と話せるようになりたいってことか」
「そうです」日和が認めた。「嫉妬が、あなたの欲求を明確にしてくれた」
ミラが新しいメモを見せた。「比較の罠」
日和が説明した。「でも、注意が必要です。常に他者と比較していると、自分の価値が他者次第になってしまう」
「自分軸がなくなる」空が言った。
「そう。内的基準ではなく、外的基準で生きることになる」
海斗が聞いた。「じゃあ、どうすればいいの?」
日和が答える。「過去の自分と比較するんです」
「過去の自分?」
「一年前の自分、一か月前の自分。他者ではなく、自分の成長を基準にする」
空が賛成した。「それなら、自分のペースで進める」
ミラが微笑んで書いた。「自分との競争」
海斗が少し明るくなった。「確かに、一年前の俺より、今のほうがマシかも」
「それが大切」日和が言った。「他者の成功は、あなたの失敗を意味しない」
空が付け加えた。「みんな違う道を歩いてる。比較しても意味ない」
海斗が深呼吸した。「わかった。羨ましいと思ったら、それを手がかりに、自分が何を求めてるか考えてみる」
「良いアプローチです」日和が認めた。
ミラがノートを閉じた。
空が言った。「羨望は、敵じゃない。味方にできる」
海斗が笑った。「なんか、気持ちが楽になった」
日和が静かに言った。「感情に良いも悪いもありません。それをどう使うかが大切です」
四人は窓の外を見た。それぞれの道を歩く人々。比較ではなく、理解を。羨望ではなく、学びを。今日、そんなことを考えた午後だった。