「また誤解された」
陸が落ち込んで部室に入ってきた。
「何があった?」葵が聞く。
「クラスメートに冗談言ったら、本気にされた」
由紀が同情した。「よくありますよね」
「人間の会話は、ノイズが多い」葵が説明した。「だからエラー訂正が必要だ」
「エラー訂正?」陸が聞く。
「通信におけるエラーを検出し、訂正する技術。人間関係にも応用できる」
葵はホワイトボードに図を描いた。
「送信:陸の意図 ノイズ:表現の不明瞭さ、文脈の欠如 受信:相手の解釈」
「ノイズでエラーが発生する」
由紀がノートに書く。「エラーを防ぐには?」
「冗長性を追加する。パリティビット、誤り検出符号、ハミング符号」
「人間の場合は?」
葵が答えた。「繰り返し、言い換え、確認」
陸が理解した。「『冗談だよ』って付け加えればいいのか」
「それが冗長性だ。余分な情報で、誤解を防ぐ」
由紀が質問した。「でも、説明しすぎると面倒くさがられる」
「トレードオフだ」葵が認めた。「冗長性が高いほど、エラー訂正能力は上がる。でも、効率は下がる」
「バランスが重要ですね」
「そう。相手のノイズレベルに応じて、冗長性を調整する」
陸が考えた。「親しい友達には、少ない言葉で伝わる」
「相互情報量が高いから、冗長性は少なくていい」
「初対面の人には、丁寧に説明する」
「相互情報量が低いから、高い冗長性が必要だ」
由紀が興味を示した。「エラー訂正符号って、具体的にどんなもの?」
葵が説明した。「ハミング符号は、データビットにパリティビットを追加する」
「7ビットで4ビットの情報を送る。3ビットは冗長性だ」
「1ビットのエラーなら、自動的に訂正できる」
陸が驚いた。「自動で直るの?」
「そう。符号の性質を使って、エラーの位置を特定し、訂正する」
「人間の脳も似たことをしてる」由紀が言った。
「そうだ。文脈からエラーを検出し、正しい意味を推測する」
葵は例を出した。
「『わたは行きます』というメッセージ。『し』が抜けているとエラー検出できる」
「文法と文脈が、パリティビットの役割だ」
陸が真剣に聞く。「誤解を完全に防ぐことはできる?」
「できない」葵が即答した。「シャノン限界があるように、エラー訂正にも限界がある」
「ノイズが大きすぎると、訂正不能だ」
由紀が静かに言った。「だから、ノイズを減らす努力も大事」
「まさに。送信側も受信側も、両方が努力する」
葵が窓の外を見た。「ノイズリダクション。それが良いコミュニケーションの鍵だ」
陸が笑った。「タイトルみたいだな。ノイズリダクション・ラブ」
「悪くない」葵が微笑んだ。「愛も、ノイズとの戦いかもしれない」
「誤解を減らし、理解を深める」
由紀がノートを閉じた。「エラー訂正、日常で使えますね」
「無意識に使っている。でも、意識すればもっと上手くなる」
陸が立ち上がった。「今日から、冗長性を意識してみる」
「ただし、適度にな」葵が忠告した。「過剰な冗長性は、効率を下げる」
「バランスですね」由紀が頷いた。
三人は静かに教室を出た。ノイズのある世界で、エラー訂正しながら生きていく。
それが、ノイズリダクション・ラブの本質だった。