「最近、眠れないんです」
空が深夜のメッセージで言った。レオと日和が、オンライン通話に応じた。
「何時?」レオが聞く。画面の向こうで、彼も寝ていなかったようだ。
「午前3時」空が答えた。「考えごとが止まらない」
日和が優しく聞いた。「何について考えているの?」
空が黙った。答えたくないようだ。
「話したくないなら、無理しなくていい」日和が言った。
しばらく沈黙があった。そして、空が小さく言った。
「祖母が、先月亡くなったんです」
レオと日和が静かに待った。
「葬式も終わって、日常に戻ったはずなのに」空が続けた。「夜になると、急に悲しくなる。でも、泣けない」
日和が静かに言った。「悲しみと向き合うのは、とても難しいことです」
「昼間は大丈夫なんです」空が説明した。「学校に行って、勉強して、友達と話して。でも、夜、一人になると...」
「回避してるんですね」レオが観察した。
「回避?」
「悲しみから目をそらすために、忙しくしている」日和が説明した。「無意識の防衛機制です」
空が認めた。「そうかもしれません。考えたくないから、ずっと何かしてる」
レオが聞いた。「でも、夜は回避できない?」
「静かすぎて」空が言った。「考えが溢れてくる。祖母のこと、もっと一緒にいればよかったとか」
日和が優しく言った。「それは自然な反応です。悲嘆のプロセスに含まれる」
「悲嘆のプロセス?」
「心理学者キューブラー・ロスが提唱した、喪失を受け入れる段階です」日和が説明した。「否認、怒り、取引、抑うつ、受容。順番通りとは限らないけど」
空が聞いた。「私は今、どの段階ですか?」
「否認から抑うつの間かもしれません」日和が答えた。「まだ、喪失の現実を完全には受け入れていない」
レオが実践的な質問をした。「向き合うって、具体的に何をすればいい?」
日和が考えた。「感情を感じることを許可することです。泣きたいなら泣く。悲しみを抑圧しない」
「でも、泣けないんです」空が困惑した。
「それも自然です」日和が言った。「悲しみは、準備ができた時に来る。無理に引き出す必要はない」
レオが提案した。「書くのはどう?祖母との思い出を」
空が考えた。「書いたら、余計悲しくなりませんか?」
「短期的にはそうかもしれない」日和が認めた。「でも、長期的には、感情を処理する助けになります」
空が躊躇した。「怖いんです。悲しみに呑み込まれそうで」
日和が静かに言った。「悲しみは波のようなものです。押し寄せてきて、引いていく。永遠には続かない」
「でも、すごく苦しい時は?」
「その時は、誰かに話す」レオが言った。「僕たちみたいに。一人で抱え込まない」
日和が付け加えた。「悲しみを分かち合うことで、少し軽くなります。完全には消えないけど、耐えられる重さになる」
空が小さく言った。「祖母は、いつも私の話を聞いてくれた。何も言わずに、ただ聞いてくれた」
涙が、ようやく溢れてきた。
レオと日和は、何も言わずに待った。
空が泣きながら話した。「もっと話したかった。もっと一緒にいたかった」
「その気持ち、大切にしてください」日和が優しく言った。
泣き終わった後、空は少し楽になった気がした。
「悲しみって、終わりがあるんですか?」空が聞いた。
日和が答えた。「完全には終わらないかもしれません。でも、形が変わります。激しい痛みから、静かな懐かしさに」
「どれくらいかかりますか?」
「人それぞれです」レオが言った。「焦る必要はない。自分のペースでいい」
空が深呼吸した。「今夜は、少し眠れそうです」
「良かった」日和が微笑んだ。
レオが言った。「また眠れない夜があったら、連絡して。いつでも」
「ありがとう」空が言った。「向き合うのは怖いけど、一人じゃないって分かって、少し楽になりました」
日和が最後に言った。「悲しみと向き合うことは、勇気がいります。でも、それが癒しへの道です」
画面が消えた。空は静かに目を閉じた。悲しみはまだそこにある。でも、少しだけ、それを受け入れる準備ができた気がした。