自分の価値を知りたい夜

自尊心の源泉と、外的評価に依存しない内的価値の見出し方を考える。

  • #self-worth
  • #self-esteem
  • #intrinsic value
  • #validation

夜遅く、図書館にはまだ明かりが灯っていた。

ミラが一人で座っていた。ノートに何か書いては消し、また書いては消している。

空が声をかけた。「ミラ、まだいたの?」

ミラが顔を上げる。目が少し赤い。

「泣いてた?」

ミラは首を横に振ったが、否定になっていなかった。

レオが近づいた。「何かあったのか?」

ミラがゆっくりとノートを見せた。「私には価値がない」

空とレオは顔を見合わせた。

「なぜそう思う?」レオが静かに聞く。

ミラが書いた。「成績も普通。特技もない。誰かの役に立てていない」

空が驚いた。「そんなことない」

「でも、証明できない」ミラが書いた。

レオが椅子に座った。「価値というのは、何で測るものだと思う?」

ミラが考える。「成果?能力?」

「それは、一つの尺度に過ぎない」レオが説明した。「外的価値と内的価値は違う」

「外的と内的?」空が聞く。

「外的価値は、他者の評価で決まる。成績、地位、評判など」

「内的価値は?」

「自分が自分であることの価値。条件によらない、存在そのものの価値」

ミラが書いた。「存在の価値?」

レオが頷いた。「君が生きていること自体に、価値がある」

「でも、それをどう信じればいい?」ミラが問う。

空が話し始めた。「私も昔、同じことで悩んでた」

ミラが空を見る。

「私、何の取り柄もないって思ってた。でも、ある日気づいたの」

「何を?」

「価値は、比較で決まるものじゃないって」

レオが補足した。「人間の価値は、商品の価値とは違う。交換可能な量ではない」

ミラが考え込む。

レオが続けた。「カール・ロジャーズという心理学者は、無条件の肯定的配慮という概念を提唱した」

「無条件の肯定?」空が聞く。

「条件なしに、その人を受け入れること。成果や能力に関係なく」

ミラが書いた。「そんなこと、可能?」

「難しい」レオが認めた。「でも、まず自分自身に対してそうすることが大切」

空が理解した。「自己受容だね」

「そうです。自分を条件なしに受け入れる」

ミラが不安そうに書く。「弱点も、失敗も?」

「すべて含めて」レオが強調した。「完璧でないことが、人間であることの証明だ」

空が例を挙げた。「花は、美しいから価値があるんじゃない。花だから価値がある」

ミラが少し微笑んだ。

レオが続けた。「君の価値は、他人が決めるものではない。君が存在することで、世界は違う」

「どう違う?」ミラが書く。

「君がいなければ、この会話も存在しない。君の視点も、経験も、感情も、唯一無二だ」

空が付け加えた。「ミラがいてくれて、私は嬉しい。それだけで十分な理由じゃない?」

ミラの目に涙が浮かんだ。

レオが静かに言った。「自尊心の源泉を、外部に求めると、常に不安定になる」

「外部?」

「他者の評価、成績、外見など。それらは変動する」

空が理解した。「内部に源泉を持つことが大切」

「そうです。自分の価値観、信念、そして存在そのもの」

ミラがゆっくりと書いた。「どうやって内部の源泉を見つける?」

レオが答えた。「自分に問いかける。『私は何を大切にしているか』『私は何に喜びを感じるか』」

空が提案した。「ミラ、何か好きなことある?」

ミラが考えて書いた。「絵を描くこと」

「それが、君の内的価値の一部だ」レオが言った。「他人に認められなくても、君は描くことに喜びを感じる」

ミラが頷いた。

空が微笑んだ。「価値は、作るものでも証明するものでもない。すでにあるものに気づくだけ」

レオが最後に言った。「君の価値を疑う夜は、また来るかもしれない。でも、その時は今日のことを思い出して」

ミラが書いた。「ありがとう」

三人は静かに座っていた。夜の図書館で、自己価値についての対話。答えは簡単には出ない。でも、探求すること自体に意味がある。

「帰ろうか」空が提案した。

ミラが頷いた。少し軽くなった心で、夜道を歩く。

自分の価値を知りたい夜。それは、自分と向き合う夜だった。