深夜の図書館。空は一人で勉強していたが、集中できない。
「どうしたの?」
日和が声をかけた。ミラも一緒にいる。
空が顔を上げた。「焦ってるんです。やらなきゃいけないことが多すぎて」
「リストにしてみた?」日和が聞く。
「リストはあるんですけど、見るたびに不安になる。終わらない気がして」
ミラがノートに書いた。「焦燥感」
日和が優しく言った。「焦燥感は、不安の一形態です」
「不安?」
「未来に対する恐れ。コントロールできない感覚から生まれます」
空が認めた。「確かに、全部が手に負えない気がする」
日和が説明し始めた。「心理学では、不安には二種類あります。現実的な不安と、病的な不安」
「どう違うんですか?」
「現実的な不安は、対処可能な問題への反応。病的な不安は、過度で不釣り合いな反応」
空が考えた。「...どっちかわからない」
「まず、心配の内容を具体化してみましょう」日和が提案した。
空が話し始めた。「レポートが三つ、テストが二つ、部活の準備も」
「それは確かに多い」日和が認めた。「でも、全部同時にやる必要はない」
ミラが書いた。「優先順位」
「そう。まず、最も緊急なものは?」
空が考えた。「明日のテスト」
「それだけに集中する。他のことは、一旦忘れる」
「でも、忘れられない。次から次へと心配が浮かんでくる」
日和が説明した。「それは心配の反すうです。同じ心配を繰り返し考えてしまう」
「止められないんです」空が言った。
「心配は、問題解決の試みです」日和が言った。「でも、行動なき心配は、解決につながらない」
ミラが書いた。「心配と行動は違う」
「正確」日和が頷いた。「心配している時間を、小さな行動に変える」
空が聞いた。「どんな行動?」
「テスト勉強なら、まず一つの章を読む。それだけ。完璧にする必要はない」
空が不安そうに言った。「でも、それだけじゃ足りない」
「足りるかどうかは後で考える。今できることをする」
ミラがまた書いた。「完璧主義は焦燥感を生む」
日和が認めた。「そう。完璧を目指すと、永遠に終わらない気がする」
空が気づいた。「私、完璧にやろうとしてた」
「それが焦燥感の原因かもしれません」日和が言った。「『十分に良い』で満足することも大切」
空が深呼吸した。「でも、不安は消えない」
「不安を完全に消す必要はありません」日和が優しく言った。「不安と共存する」
「共存?」
「不安を敵ではなく、警告システムとして見る。『何か大切なことがある』というサイン」
ミラが書いた。「不安は味方」
空が少し楽になった。「なるほど...」
日和が続けた。「もう一つ、身体的なアプローチもあります」
「身体的?」
「深呼吸、筋弛緩法、適度な運動。身体を落ち着けると、心も落ち着く」
空が試した。「ゆっくり息を吸って...吐いて」
「良いですね。呼吸は、自律神経をコントロールできる数少ない方法です」
ミラが静かに空の手を取った。温かかった。
「ありがとう、ミラさん」
日和が微笑んだ。「人とつながることも、不安を和らげます」
空が聞いた。「なぜですか?」
「人間は社会的動物。安全な人とつながると、オキシトシンが分泌され、ストレスが軽減される」
空が頷いた。「確かに、少し楽になった」
日和が言った。「焦燥感が止まらない夜は、完璧を求めず、今できることをする」
ミラが書いた。「そして、一人で抱えない」
空が微笑んだ。「二人とも、ありがとう」
「明日のテストに集中しましょう」日和が提案した。「他のことは、明日考える」
空がノートを開いた。「一歩ずつ、やってみます」
三人は静かに勉強を始めた。焦燥感は完全には消えないかもしれない。でも、一人じゃないと知ることで、少し軽くなる。
深夜の図書館に、静かな安心感が漂っていた。