「これ、全部AIが提案したんですか?」
瀬名が画面を見つめた。数十個の構造式が並んでいる。
「生成モデルだ」リナが説明した。「学習した化学空間から、新しい分子を生成する」
「こんなことができるんですね…」
明が慎重だった。「でも、全てが良いわけじゃない。選別が必要だ」
リナがフィルタリングを実行した。「まず、Lipinskiルールでスクリーニング」
数十個が、十数個に減った。
「次に、合成可能性スコア」
さらに減って、五個に。
「この五個を、詳しく見よう」明が提案した。
瀬名が最初の構造を分析した。「これ、面白い構造ですね」
「見たことない骨格だ」明が興味を示した。
リナがドッキングシミュレーションを実行した。「スコアは良い」
「でも、合成できる?」明が疑問を持った。
「合成ルート検索してみる」リナが操作した。
「6ステップ。実現可能だ」
「じゃあ、試す価値がある」
瀬名が二番目の構造を見た。「こっちは、既存の化合物に似てる」
「バイオアイソスター」明が指摘した。「官能基を似た性質の別の基に置き換えた」
「AIは、既知のパターンを学習してる。だから、既存に似たものも生成する」リナが説明した。
「でも」明が続けた。「微妙な違いが、大きな改善を生むこともある」
瀬名が質問した。「AIは、どうやって学習したんですか?」
「既存の活性化合物のデータセット」リナが答えた。「数千個の構造と活性値」
「それを使って、構造-活性相関を学習する」
「でも」明が指摘した。「学習データにないパターンは、苦手だ」
「外挿の限界」
リナが認めた。「そう。だから、ドメイン知識と組み合わせる必要がある」
「AIが提案し、化学者が評価する」
瀬名が三番目の構造を見た。「これ、変な置換基が付いてる」
明が分析した。「合成が難しそうだ」
「AIは、合成の難しさを完全には理解してない」リナが説明した。
「分子が存在できるかは分かる。でも、作りやすいかは別」
「だから、合成可能性スコアでフィルタリングする」
瀬名が理解した。「AIだけでは不十分」
「道具だ」明が強調した。「強力だけど、完璧じゃない」
リナが別のAI機能を見せた。「活性予測モデル」
構造を入力すると、活性値が出力された。
「IC50 8 nM、予測値」
「信頼できる?」明が慎重だった。
「信頼区間も出る」リナが表示した。「6-12 nMの範囲」
「幅がある。でも、桁は合ってそうだ」
瀬名が質問した。「なんで幅があるんですか?」
「モデルの不確実性」リナが説明した。「学習データが限られてるから」
「でも、優先順位をつけるには十分」
明が評価した。「この予測なら、合成する価値がある」
リナが別のツールを起動した。「逆合成AIもある」
「目的分子から、原料と反応を逆算する」
画面に、合成ルートが表示された。
「4ステップ。既知の反応だけで合成可能」
瀬名が感動した。「AIが、こんなに役立つなんて」
「でも」明が釘を刺した。「最終的には、実験で確かめる」
「AIは仮説を生成する。検証は人間の仕事だ」
リナが補足した。「AIは、化学空間の探索を加速する」
「人間だけでは、一生かかっても探索できない空間を、瞬時にスクリーニングする」
「でも、物理法則や化学の知識は、人間が組み込む必要がある」
瀬名が五つの候補を見た。「どれから試しますか?」
明が評価した。「二番目と五番目。既知の延長線上で、リスクが低い」
「まずそれで検証。うまくいったら、新規骨格に挑戦」
リナが賛成した。「段階的アプローチ。AIの予測を、実験で較正していく」
瀬名が決意した。「じゃあ、合成します」
「データが集まれば、モデルを再学習させる」リナが言った。
「さらに精度が上がる」
明が最後に言った。「AIと人間の協働。それが、これからのドラッグデザインだ」
瀬名が微笑んだ。「AIが道を照らし、私たちが歩く」
「正確」リナが頷いた。
「でも、行き先を決めるのは人間だ」明が付け加えた。
三人は、AIが示した分子を見つめた。可能性と限界。その両方を理解して、前に進む。それが、新しい創薬の形だった。