「自分の記憶が信頼できないなら」と彼女は言った。「何が残るの?」
哲学者は窓の外を見た。午後の光。鳩たち。
「あなたは間違った問いを立てている」とようやく彼は言った。
「では正しい問いは?」
「『何を信頼できるか』ではなく、『信頼とは何を必要とするか』。あなたは記憶を記録装置として扱っている。そうではない。それは再構成だ——心が過去について自分自身に語る物語だ」
彼女はしばらく黙っていた。「もしその物語が間違っていたら?」
「すべての物語は間違っている。いくつかは有用だ」
「認識論を研究する人間にとって、とても都合のいい立場に聞こえる」
彼は微笑んだ。「都合がよくはない。正直に辿れば、壊滅的だ。問題は、その壊滅とどう向き合うかだ」
彼女はコーヒーカップを持ち上げた。もう冷めていた。それでも飲んだ。
「ストア派には答えがあった」と彼は言った。「記憶の問題にではなく——不確実性の問題に。彼らはそれをアモール・ファティと呼んだ」
「運命への愛」
「あるものへの愛。あなたが覚えている過去でも、あなたが恐れる未来でもなく——今この瞬間を、その不確実性ごとそのままに」
「それは諦めに聞こえる」
「そう聞こえる。でも違う」彼は窓から振り返った。「記憶が信頼できないとわかっていたら、あなたは今何をする?」
彼女は考えた。
「同じことを」とゆっくりと彼女は言った。「同じことをすると思う」
彼は頷いた。「それが、あなたの答えかもしれない」
鳩が散った。光が移った。午後は、自分自身にしか確信を持てないまま、続いていった。