「二人って、気が合うよね」
陸が由紀と葵を見て言った。
「そうかな?」由紀が首をかしげる。
「いや、マジで。よく同じタイミングで同じこと考えてる」
葵が面白そうに笑った。「それ、情報理論で説明できるよ」
「また情報理論か」陸が笑う。
「相互情報量という概念がある」葵がノートを開いた。「二つの変数が、どれだけ共通の情報を持つかを測る」
由紀が興味を示した。「共通の情報?」
「そう。独立な変数なら、相互情報量はゼロ。完全に依存していれば、大きくなる」
葵は図を描いた。
「例えば、陸の遅刻と天気。もし完全に無関係なら、天気を知っても陸の遅刻は予測できない」
「実際は雨の日に遅刻しやすいけどな」陸が認めた。
「つまり、相関がある。その相関の強さが、相互情報量だ」
由紀がノートに書き留める。「式はあるんですか?」
「I(X;Y) = H(X) - H(X|Y)
Xのエントロピーから、Yを知った後のXの条件付きエントロピーを引いたもの」
「条件付きエントロピー?」
「Yを観測した後に残る、Xの不確実性。もしYがXについて多くを教えてくれるなら、条件付きエントロピーは小さくなる」
陸が考え込んだ。「じゃあ、俺と由紀の行動の相互情報量は?」
葵が笑った。「測ってみる価値はあるね。もし二人がよく似た行動パターンなら、相互情報量は高い」
「どうやって測るんですか?」由紀が聞く。
「実際のデータを集めて統計を取る。例えば、同時に同じ本を読んだ回数、似た意見を持った議題の割合、とか」
陸がスマホを取り出した。「位置情報とかも使えそう」
「プライバシーの問題があるけどね」葵が釘を刺した。「でも概念としては面白い。親しい友人は、高い相互情報量を持つはずだ」
由紀がふと思いついた。「完全に独立な人って、いるんですか?」
「完全には難しい。同じ社会、同じ文化に生きていれば、何らかの相関は生まれる」
陸が言った。「じゃあ、ミラは?あいつ、誰とも行動パターンが似てない」
「ミラは特殊だね」葵が認めた。「もしかしたら、私たちとは異なる情報源から学んでいるのかも」
由紀が興味深そうに聞く。「相互情報量って、友情の指標になりますか?」
「面白い視点だ。高い相互情報量は、共通理解があることを示す。でも、それだけが友情じゃないよね」
「どういうこと?」
「完全に同じ思考をする二人は、相互情報量は高いけど、新しい情報を交換しない。多様性も大事だ」
陸が頷いた。「確かに。俺たち三人、全然違うタイプだけど、だから面白いのかも」
葵が補足した。「適度な相関と、適度な独立性。それがバランスの良い関係だね」
由紀がノートを見直した。「I(X;Y) = I(Y;X)って、対称なんですね」
「そう。相互情報量は対称性がある。XからYへの情報も、YからXへの情報も同じ」
「KL距離とは違う」陸が思い出した。
「良く覚えてたね。相互情報量は、真の情報的な重なりを測る」
窓の外で、二羽の鳥が同じタイミングで飛び立った。
「あの鳥たち、相互情報量高そう」陸が指差した。
「群れで飛ぶ鳥は、確かに高い相関を持つ」葵が言った。
由紀が微笑んだ。「私たちも、見えない情報を共有してるんですね」
「そう。それが、一緒にいることの意味かもしれない」
三人は静かに、共通の"びっくり"を感じていた。