「承認欲求って、悪いもの?」
晴が真剣な顔で聞いた。
サイモンが眉を上げた。「なぜそう思う?」
「最近、ネットで『承認欲求が強い人』って批判されてるのを見て」
蓮が冷静に言った。「承認欲求そのものは中立的だ。使い方次第」
「中立的?」
「人間の基本的な欲求の一つだ。食欲や睡眠欲と同じように」
サイモンが補足した。「マズローの欲求階層論でも、承認欲求は重要な位置を占めている」
晴がノートに書いた。「じゃあ、なぜ批判されるの?」
「過度な承認欲求が問題視される」蓮が説明した。「他者の評価に依存しすぎること」
「依存?」
「自分の価値を、他者の承認でしか測れなくなる」
サイモンが例を出した。「SNSで『いいね』の数に一喜一憂するように」
晴が納得した。「それは、確かに辛そう」
「でも」蓮が続けた。「適度な承認欲求は、成長の原動力になる」
「どういうこと?」
「誰かに認められたいから、努力する。技術を磨く、知識を深める」
サイモンが頷いた。「哲学者のヘーゲルも、承認をめぐる闘争が人間を発展させると言った」
晴が考え込んだ。「じゃあ、良い承認欲求と悪い承認欲求があるの?」
「区別すべきは、承認の『源』だ」蓮が整理した。
「源?」
「内発的か、外発的か」
サイモンが説明した。「内発的承認欲求は、自分が設定した基準を満たすこと。外発的は、他者の基準を満たすこと」
晴がゆっくり理解した。「自分で自分を認めるのと、他人に認めてもらうのと」
「そう。両方とも大切だけど、バランスが重要」
「バランス?」
蓮が言った。「外発的承認だけに頼ると、他者に振り回される。内発的承認だけだと、独善的になる」
サイモンが付け加えた。「理想は、内発的動機を持ちつつ、外発的承認も適度に受け取ること」
晴が疑問を持った。「でも、他人に認められたいって思うのは、弱さじゃない?」
「なぜそう思う?」蓮が聞き返した。
「自分だけで満足できないってことだから」
サイモンが穏やかに言った。「人間は社会的動物だ。他者との繋がりを求めるのは、弱さじゃなく本質だ」
「本質?」
「孤立して生きられない。だから、承認は生存戦略でもある」
蓮が補足した。「問題は、承認の奴隷になることだ。承認を得るために自分を偽る」
晴が深く頷いた。「本当の自分を隠して、承認されても意味がない」
「そう。それは空虚な承認だ」
サイモンが哲学的に語った。「サルトルは『他者は地獄だ』と言った。でも、それは他者の視線から逃れられないという意味でもある」
「逃れられない?」
「私たちは、常に他者の目を意識して生きている。それ自体は避けられない」
蓮が続けた。「だから、その視線とどう向き合うかが重要だ」
晴が聞いた。「どう向き合えばいい?」
「他者の評価を参考にはするが、最終判断は自分でする」
サイモンが微笑んだ。「承認欲求を持つことを恥じない。でも、それに支配されない」
晴がまとめた。「承認欲求は、使い方次第で毒にも薬にもなる」
「完璧な理解だ」蓮が認めた。
サイモンが最後に言った。「そして、自分の承認欲求を理解することが、健全に付き合う第一歩だ」
晴が静かに頷いた。「承認されたいって、認めてもいいんだね」
「むしろ、認めるべきだ」蓮が言った。「否定すれば、無意識に暴走する」
サイモンが穏やかに言った。「自分を知ること。それが、自由への道だ」
三人は窓の外を見た。承認欲求は人間的だ。それを恥じず、でも溺れず。そのバランスが、成熟への道だと理解した。