「直感で答えを変えたら、全部間違ってた」
晴がテストを見ながら落ち込んでいた。
「最初の直感が正しかったの?」ノアが尋ねた。
「そう。考え直したのが失敗だった」
レンが割って入った。「直感は信頼できない。論理的に考えるべきだ」
ノアが首を振った。「でも、直感が正しいこともある」
「それは偶然だ」
「本当に?」
晴が二人を見た。「直感って、何なの?」
ノアが答えた。「過去の経験が、無意識に判断を下すプロセス」
「つまり、勘?」
「勘より複雑。脳が蓄積したパターンを、高速で照合している」
レンが補足した。「ヒューリスティック。簡易的な判断規則だ」
「簡易的?」晴が聞く。
「完璧じゃないが、速い。サバイバルには有利だった」
ノアが例を挙げた。「暗い道で人影を見たとき、考える前に避ける。それが直感」
「危険を察知する能力」
「そう。でも、その能力は現代社会では時に誤作動する」
レンが続けた。「統計的な問題では、直感はしばしば間違う」
「例えば?」
「モンティ・ホール問題。直感では正解できない」
晴が思い出した。「ドアを選び直す問題!」
「直感は『変えても同じ』と言う。でも数学的には『変えた方が有利』だ」
ノアが静かに言った。「直感の限界を示す好例」
晴が不安になった。「じゃあ、直感は使わない方がいい?」
「そうとも限らない」ノアが言った。「領域による」
「領域?」
「専門家の直感は、かなり正確だ」レンが認めた。
「専門家?」
「医師の診断、棋士の次の一手。長年の経験が、直感を洗練させる」
ノアが付け加えた。「ただし、規則性のある領域に限る」
晴が理解した。「ランダムな状況では、直感は使えない?」
「使えないというより、信頼できない」
レンが説明した。「株価予測やギャンブル。パターンがないのにパターンを見てしまう」
「それが認知バイアス」
ノアが晴を見た。「あなたの試験はどうだった?」
「数学の問題」
「規則性がある?」
「...ある」
「なら、最初の直感には一定の根拠があった可能性が高い」
晴が驚いた。「じゃあ、変えなければよかった!」
レンが冷静に言った。「でも、検証は必要だ」
「検証?」
「直感を論理で確認する。両方を使う」
ノアが頷いた。「直感と論理は対立じゃなくて、補完関係」
「補完?」
「直感が仮説を生み、論理が検証する」
晴が理解した。「どちらも必要なんだ」
「状況による使い分けが重要」レンが言った。
「緊急時は直感。時間があるなら論理」
ノアが補足した。「複雑な社会問題は、直感だけでは危険」
「でも、論理だけでも不十分」
レンが認めた。「人間の要素を捉えるには、直感的理解も要る」
晴がノートに書いた。「直感は、経験の結晶。でも万能じゃない」
「良いまとめだ」ノアが微笑んだ。
「じゃあ、次のテストはどうすれば?」
「最初の直感を尊重しつつ、論理的に検証する」レンがアドバイスした。
「両方使う」
「そして、自分の直感がどんな状況で正確か、経験から学ぶ」
ノアが付け加えた。「自己認識が、直感を改善する」
晴が笑った。「直感を信頼するために、論理が必要なんだ」
「逆説的だが、その通り」レンが認めた。
ノアが静かに言った。「知恵は、直感と論理の踊り」
「踊り?」
「どちらかだけでは踊れない。リズムを合わせる」
晴が窓を見た。「難しそう」
「でも、人間は毎日それをしてる」レンが言った。「意識してないだけで」
「じゃあ、意識すれば上手くなる?」
「おそらく」ノアが頷いた。「それが成長」
三人は静かに微笑んだ。直感と論理、どちらも不完全だからこそ、共に必要だった。