「知らなかったんだから、悪くないでしょ」
晴が言い訳した。蓮が厳しい目をする。
「無知は免罪符にならない」
「でも、知らないことまで責任取れない」
サイモンが仲裁した。「無知には、種類がある」
「種類?」晴が聞いた。
「知らないことを知らない無知と、知らないことを選んだ無知」
蓮が補足した。「前者は不可避。後者は故意だ」
「知らないことを選ぶ?」
「情報があるのに、見ない。学ばない。それは選択だ」
晴が考えた。「でも、全てを知ることは不可能だよね」
「もちろん」サイモンが頷いた。「だから、何を知るべきかが重要だ」
「優先順位?」
「自分の立場や役割に応じて、知るべきことがある」
蓮が例を出した。「医者が医学を知らないのは、罪だ。患者に害を与える」
「専門的責任ね」晴が理解した。
「一般市民にも、知るべきことがある」サイモンが言った。
「例えば?」
「社会のルール、基本的人権、投票する候補者の政策」
晴が反論した。「でも、政治は難しい。全部理解できない」
「完璧な理解は不要」蓮が言った。「でも、最低限の努力は必要だ」
「最低限って?」
「調べること。考えること。質問すること」
サイモンが深く言った。「ソクラテスは『無知の知』を説いた」
「自分が無知だと知ること?」
「そう。知らないと自覚することが、知の始まりだ」
晴が混乱した。「じゃあ、無知は悪くない?」
「無知自体は、悪ではない」蓮が区別した。「でも、無知を放置するのは問題だ」
「学ぶ義務があるってこと?」
「義務というより、責任だ」サイモンが言った。「自分の行動が他者に影響するなら」
ノアが補足した。「無知による害は、悪意による害と同じ結果を生むことがある」
「だから、知らなかったは言い訳にならない?」
「状況による」蓮が慎重に言った。「知る手段がなかったなら、責任は軽い」
「でも、現代は情報社会」サイモンが指摘した。「知る手段は豊富だ」
晴が考えた。「じゃあ、フェイクニュースは?間違った情報を信じたら?」
「それも無知の一形態だ」蓮が答えた。「情報リテラシーの欠如」
「批判的思考が必要」サイモンが補足した。「鵜呑みにせず、検証する」
「でも、全部検証するのは大変」晴が不満を言った。
「だからこそ、信頼できる情報源を見分ける能力が大事」
ノアが静かに言った。「無知は、時に快適だ」
「快適?」
「知らない方が、楽なことがある。知ると、責任が生じる」
晴が理解した。「だから、知らないことを選ぶ人もいる」
「意図的無知」蓮が名付けた。「それは倫理的に問題だ」
サイモンが例を出した。「環境問題。知ると、生活を変える必要がある。だから知りたくない」
「でも、それは無責任」晴が言った。
「そう。次世代に負担を押し付けることになる」
蓮が厳しく言った。「権力者の無知は、特に罪深い」
「なぜ?」
「影響力が大きいから。無知な決定が、多くの人を苦しめる」
サイモンが歴史を引いた。「『ノブレス・オブリージュ』。地位には責任が伴う」
晴がため息をついた。「知ることって、重い」
「でも、知ることは自由でもある」ノアが励ました。
「自由?」
「無知は操作される。知識は、自律の基盤だ」
蓮が補足した。「『知は力なり』。知識は、選択肢を増やす」
晴が頷いた。「無知は罪じゃないけど、無知のままでいるのは罪」
「良い整理だ」サイモンが認めた。
「でも、知ることは終わらない」晴が不安を言った。
「それが人間の宿命だ」蓮が微笑んだ。「常に学び続ける」
サイモンが古代ギリシャを引用した。「『汝自身を知れ』。最も難しく、最も大切な知だ」
晴が決意した。「知らないことを恐れず、学び続ける」
三人は頷き合った。無知は出発点。そこから学ぶことが、人を人たらしめる。