「ダイヤモンド、壊れないって本当?」
奏がモデルを持ち上げた。
零が答えた。「完全には無理。でも、非常に硬い」
「なんで?」
「炭素-炭素の共有結合が強いから」
透真が補足した。「ダイヤモンドは巨大な共有結合の網」
奏が考えた。「共有結合って、どれくらい強いの?」
「結合エネルギーで測る」零がノートを開いた。「C-C結合は約350 kJ/mol」
「kJ/mol?」
「キロジュール毎モル。その結合を切るのに必要なエネルギー」
ミリアが例を出した。「H-H結合は約430 kJ/mol」
「水素分子って、そんなに強い?」
「小さいけど強い。二つの電子が二つの原子核を結びつけてる」
奏がノートに描いた。「電子対?」
「そう。共有結合は電子対の共有」零が説明した。
「電子が二つの原子の間にあると、両方の原子核に引かれる。それが結合を作る」
透真が図を描いた。「原子軌道が重なって、分子軌道ができる」
「分子軌道?」
「電子が存在できる領域。原子の軌道とは違う」
零が補足した。「結合性軌道と反結合性軌道。エネルギーが低い方に電子が入る」
奏が混乱した。「難しい…」
「簡単に言うと」透真が助けた。「電子が原子の間にあると、安定」
「それが共有結合の本質」
ミリアが質問した。「じゃあ、二重結合は?」
「C=C。二組の電子対」零が答えた。
「二倍強い?」
「いや。約610 kJ/mol。二倍じゃない」
「なんで?」
「σ結合とπ結合。π結合はσ結合より弱い」
奏が考えた。「三重結合は?」
「C≡C。約830 kJ/mol」
透真が整理した。「単結合<二重結合<三重結合。でも、比例はしない」
「結合が増えると、結合長は?」
「短くなる」零が答えた。「電子が増えて、原子が引き寄せられる」
奏がモデルを見た。「この結合、本当に切れないの?」
「切れるよ。エネルギーを与えれば」
「どうやって?」
「熱、光、触媒…方法はいろいろ」
透真が実験を提案した。「水を電気分解してみよう」
装置を組み立てる。電流を流す。気泡が出た。
「水素と酸素!」奏が興奮した。
「H2OのO-H結合を切った」零が説明した。
「でも、かなりエネルギーがいる?」
「そう。O-H結合は約460 kJ/mol」
ミリアが補足した。「だから水は安定。簡単には分解しない」
奏が感心した。「共有結合、本当に強い」
「生命を支える強さ」透真が言った。
零が続けた。「DNAの二重らせんも、共有結合と水素結合の組み合わせ」
「水素結合は弱い?」
「約20 kJ/mol。共有結合よりずっと弱い」
「でも、重要?」
「柔軟性を与える。弱いから、開いたり閉じたりできる」
奏が理解した。「強さと弱さ、両方必要なんだ」
ミリアが頷いた。「適材適所。強い結合は骨格、弱い結合は機能」
透真がダイヤモンドを見た。「でも、ダイヤモンドは全部強い結合」
「だから壊れにくい。でも、柔軟性はない」
零が静かに言った。「完璧な強さは、脆さでもある」
奏が考え込んだ。「共有結合を信じたい。でも、盲信はしない」
「良いバランスだ」零が認めた。
「化学は、強さと弱さの調和」
三人はモデルを見つめた。見えない電子対が、世界を繋ぐ。共有結合の強さは、信じるに足る。でも、それだけじゃない。