「恋愛って、エントロピー高くない?」
陸が突然言った。
「どういう意味?」由紀が聞き返した。
「予測不可能じゃん。次に何が起こるか分からない」
葵が笑った。「確かに。恋愛は高エントロピー系かもしれない」
「エントロピー?」
「不確実性の尺度。H(X) = -Σ p(x) log p(x)」
由紀が考えた。「高いと、どうなるんですか?」
「予測が難しくなる。サイコロを振るみたいに」
「低いと、ほぼ確定している」
陸が例を出した。「じゃあ、片思いから両想いになるプロセスは?」
「エントロピーが減少する過程だね」
葵が説明した。「最初は、相手の気持ちが全く分からない。高エントロピー」
「でも、デートを重ね、会話を増やすと、相手の反応が読めてくる」
「情報を得て、不確実性が減る」
由紀が質問した。「じゃあ、完全に気持ちが分かったら、エントロピーはゼロ?」
「理論的にはね。でも、人間は複雑だから、完全にゼロにはならない」
「常に少しの不確実性が残る」
陸が考え込んだ。「でも、エントロピーが低すぎると、つまらなくない?」
「鋭い指摘だ」
葵が続けた。「完全に予測可能な関係は、刺激が少ない」
「サプライズがない。驚きがない」
「情報量がゼロに近づく」
由紀がノートに書いた。「じゃあ、適度な不確実性が必要?」
「そう。エントロピーとのバランスだ」
「安定性と新鮮さのトレードオフ」
陸が笑った。「俺、高エントロピーな人間だから、恋愛向いてるのかな」
「いや、それは混沌なだけだ」葵がツッコんだ。
「適度な予測可能性がないと、信頼が築けない」
由紀が補足した。「完全にランダムだと、パターンが学習できませんね」
「そう。機械学習でも、データに規則性がないと学習できない」
「恋愛も同じ。ある程度の一貫性が必要」
葵が新しい視点を出した。「エントロピーは、驚きの期待値でもある」
「平均的に、どれくらい驚かされるか」
陸が質問した。「じゃあ、高エントロピーな恋愛は、ドキドキする?」
「するだろうね。次に何が起こるか分からないから」
「でも、ストレスも高い」
由紀が例を出した。「ジェットコースターみたいですね」
「スリルがあるけど、毎日は疲れる」
葵が頷いた。「長期的な関係では、低エントロピーの方が安定する」
「予測可能性が、安心感を生む」
陸がふと真面目になった。「じゃあ、恋愛の理想は、エントロピーの最適化?」
「面白い見方だ」
葵が考えた。「初期は高エントロピーで刺激的。徐々に低下して安定へ」
「時間経過とともに、エントロピーが減る」
由紀が質問した。「でも、減りすぎたらマンネリ化?」
「そう。だから、時々エントロピーを上げる工夫が必要」
「サプライズデート、新しい趣味、旅行」
陸が理解した。「エントロピー管理が、関係を維持する鍵なんだ」
「情報理論的にはね」
葵が補足した。「ただし、これは理論。現実の恋愛は、もっと複雑だ」
「感情、タイミング、相性。数式だけじゃ説明できない」
由紀がまとめた。「でも、考え方として面白いですね」
「エントロピーで恋愛を捉える」
陸が笑った。「エントロピーの高い恋愛論、か。タイトルっぽい」
「君らしいね」
葵が窓の外を見た。「世界は、エントロピーが増大する」
「熱力学第二法則だ」
「でも、局所的には減らせる」
由紀が続けた。「関係を築くこと、理解し合うこと」
「それは、エントロピーを減らす営みかもしれません」
陸が頷いた。「だから、人は努力するんだな」
「不確実性と戦いながら、でも不確実性を楽しみながら」
「それが、恋愛の本質かもね」
三人は笑った。
高エントロピーな恋愛論は、まだまだ続きそうだった。