「海斗くん、また徹夜したんですか?」
日和が心配そうに聞いた。海斗の目の下には、濃いクマがある。
「レポートを完璧にしたくて」海斗が疲れた声で答えた。
空が観察する。「完璧にしなければいけない理由があるんですか?」
「ある」海斗が即答した。「中途半端な仕事はしたくない」
日和が静かに言った。「でも、体を壊しては意味がありません」
「大丈夫です」海斗が否定する。「これくらい平気」
空がノートを開いた。「完璧主義について、学んだことがあります」
「完璧主義?俺が?」
「はい」空が答えた。「完璧主義は、高い基準を設定し、それ以外を受け入れられない状態です」
日和が補足した。「健全な完璧主義と、不健全な完璧主義があります」
「違いは?」海斗が聞く。
「健全な完璧主義は、高い目標を持ちながら、柔軟性がある」空が説明した。
「不健全な完璧主義は、完璧でなければ価値がないと考える」
海斗が黙った。
日和が優しく聞いた。「海斗くんは、なぜ完璧を求めるんですか?」
海斗が考えてから答えた。「認められたいから」
「誰に?」
「先生、友達、親...みんな」
空が指摘した。「つまり、完璧な仕事=あなたの価値、と考えているんですね」
海斗が頷いた。「そうじゃないんですか?」
「違います」日和が断言した。「あなたの価値は、成果とは別です」
「でも、成果を出さないと認められない」
空が反論した。「それは思い込みかもしれません。認知の歪みです」
「全か無か思考」日和が説明した。「完璧か失敗か、二つしかない考え方」
「実際は、その間に無数のグレーゾーンがあります」
海斗が疲れた顔で言った。「でも、やめられないんです。頑張らないと不安で」
「それが問題です」空が言った。「完璧主義は、燃え尽き症候群につながります」
「燃え尽き?」
日和が列挙した。「極度の疲労、達成感の喪失、冷笑的態度」
「持続不可能なペースで働き続けると、心身が崩壊します」
海斗が静かに聞いている。
空が聞いた。「海斗さん、今、楽しいですか?勉強や活動が」
海斗が考えた。「楽しい...わかりません。義務みたいな感じ」
「やらなければいけないこと」
日和が悲しそうに言った。「それは健全な状態ではありません」
「じゃあ、どうすれば?」海斗が聞く。
空が提案した。「まず、完璧の定義を見直すこと」
「100点でなくても、80点で十分な場合がある」
日和が続けた。「次に、休息を価値あるものとして認めること」
「休むこと=怠けること、ではありません」
海斗が抵抗した。「でも、他のみんなは頑張っている」
「他人との比較も、問題です」空が指摘した。「あなたには、あなたのペースがあります」
日和が優しく言った。「海斗くん、自分に優しくしてください」
「自分に優しく?」
「はい。自分を批判するのではなく、労わる。セルフコンパッション」
空が補足した。「失敗しても、自分を責めすぎない。人間らしい不完全さを受け入れる」
海斗が静かに言った。「でも、それじゃあ成長できない」
「逆です」日和が断言した。「自己批判は、成長を妨げます」
「恐怖からの動機づけは、長続きしません」
空が例を出した。「『完璧でなければ価値がない』より『今日もよく頑張った』の方が、持続可能です」
海斗が考え込んだ。「難しい...今まで、ずっと完璧を目指してきた」
「習慣を変えるのは時間がかかります」日和が認めた。「でも、必要なことです」
空が提案した。「まず今日は、早く帰って休んでください」
「レポートは、80点でも提出できます」
海斗が迷った。「本当に、それでいいんですか?」
「いいんです」日和が微笑んだ。「完璧じゃなくても、あなたは価値があります」
海斗が小さく頷いた。「わかりました。帰ります」
空と日和が見送る。完璧を手放すことは、自由を手に入れることだ。