「時間って、流れてるのかな」
晴が時計を見ながらつぶやいた。
「感じるだろう?今この瞬間も、過去になっていく」蓮が答えた。
「でも、それは錯覚かもしれない」
乃愛が静かに座った。「面白いこと考えてるね」
晴が説明した。「物理学の本で読んだんだ。時間は流れない、って」
「ブロック宇宙論?」蓮が推測した。
「それ!全ての時点が同時に存在してるって」
乃愛が興味を示した。「じゃあ、過去も未来も、今も、全部同じ?」
「ある理論では、そうだ」蓮が説明した。「相対性理論では、時間は空間と同じ次元。流れるんじゃなく、ただ存在する」
「でも、私たちは流れを感じる」晴が反論した。
「それが謎だ」蓮が認めた。「主観的な時間と、物理的な時間のギャップ」
乃愛が問いかけた。「じゃあ、『今』って何?」
「難しい質問だ」蓮が考え込んだ。「物理学的には、『今』に特別な地位はない」
「特別じゃない?」晴が驚いた。
「過去・現在・未来の区別は、観測者依存だ。相対性理論では、同時性も相対的」
乃愛が深めた。「でも、私たちにとって『今』は最も重要」
「意識の視点からは、そうだ」蓮が認めた。「過去は記憶、未来は予測。今だけが直接経験される」
晴が聞いた。「じゃあ、時間の流れは意識が作ってる?」
「一つの仮説だ」蓮が答えた。「エントロピーの増大を、私たちは時間の流れと感じる」
「エントロピー?」
「無秩序の度合い。コーヒーにミルクを入れると、混ざっていく。逆は起きない」
乃愛が付け加えた。「記憶も同じ。過去は覚えてるけど、未来は覚えてない。これが方向性を作る」
「方向性が、流れの錯覚を生む?」晴が理解した。
「そうかもしれない」蓮が言った。「でも、なぜ私たちがそう感じるのか、完全には解明されてない」
乃愛が哲学的に問うた。「もし時間が流れてないなら、変化はどう説明する?」
「良い問いだ」蓮が認めた。「変化も錯覚かもしれない」
「錯覚?」晴が混乱した。
「全ての状態が既に存在してる。私たちが『今』という点を移動してる気がするだけ」
乃愛が別の視点を提示した。「でも、選択は?未来は決まってるの?」
「決定論の問題だ」蓮が整理した。「時間が流れないからといって、未来が決まってるとは限らない」
「矛盾してない?」晴が聞いた。
「量子力学では、未来は確率的に開いてる。でも、時間の流れとは別の話だ」
乃愛が静かに言った。「時間の謎は深いね」
晴が窓の外を見た。「じゃあ、私が今感じてる時間の流れは?」
「実在する経験だ」乃愛が答えた。「物理的時間とは違っても、心理的には本物」
蓮が付け加えた。「科学は一つの視点。哲学や心理学は、別の視点を提供する」
「どれが正しいの?」
「全部が正しい、かもしれない」乃愛が微笑んだ。「異なる層の真実」
晴がノートに書いた。「時間は流れてるけど、流れてない」
「矛盾を受け入れること」蓮が言った。「それも知恵の一つだ」
乃愛が最後に言った。「時間とは何か、まだ誰も知らない。だから考え続ける価値がある」
三人は時計を見つめた。秒針が進んでいく。それが流れなのか、錯覚なのか、答えは出なかった。でも、問うことに意味があった。