「空、大丈夫?」
海斗が声をかけた。いつもは観察する側の空が、今日は元気がない。
「ああ、大丈夫」空が笑顔で答えた。
日和がじっと見ていた。「本当に?」
「うん、大丈夫だよ」空が繰り返した。
ミラがノートに書いた。「大丈夫じゃなさそう」
空が少し驚いた。「そんなことないよ」
海斗が不思議そうに言った。「空って、いつも他人の気持ちを読むのに、自分のことは隠すんだな」
空が黙り込んだ。
日和が優しく聞いた。「何があったんですか?」
空が溜息をついた。「...家族のことで、ちょっと」
「話してくれないか?」海斗が促した。
「でも、みんなに心配かけたくない」
ミラが書いた。「私たちは友達」
空が少し目を潤ませた。「実は...親が離婚しそうで」
日和が静かに頷いた。「それは辛いですね」
「でも、大丈夫。私はもう大人だから」空が強がった。
海斗が首をかしげた。「大人だから、辛くないわけじゃないだろ」
空が驚いた表情をした。
日和が説明した。「『大丈夫』という言葉は、時として心理的な仮面です」
「仮面?」
「本当の感情を隠して、社会的に受け入れられる顔を見せる」ミラがノートに書いた。
空が認めた。「確かに...大丈夫って言っておけば、みんな安心するから」
海斗が聞いた。「でも、空自身は?」
「...全然、大丈夫じゃない」空が小さな声で言った。
日和が優しく言った。「それを言ってくれて、ありがとう」
空が涙を拭いた。「ごめん、弱いところ見せて」
「弱いんじゃない」海斗が反論した。「正直なだけだ」
ミラが書いた。「強がるのは疲れる」
「本当に」空が認めた。「ずっと、大丈夫なふりをするのに疲れてた」
日和が説明した。「心理学では、これを感情労働と呼びます。本当の感情と表現する感情が違う時、心に負担がかかる」
空が頷いた。「まさにそれ。笑顔を作るのに、すごくエネルギーを使ってた」
海斗が聞いた。「なぜ、大丈夫じゃないって言えなかったの?」
空が考えた。「みんな、それぞれ大変だから。私だけ悩んでるわけじゃないし」
「それは、感情の比較です」日和が指摘した。「他人の苦しみと自分の苦しみを比べて、自分の感情を無効化している」
「苦しみに順位はないんだよ」海斗が言った。「誰かがもっと大変だからって、空の苦しみが消えるわけじゃない」
空がハッとした。
ミラが書いた。「あなたの感情は有効」
「有効...」空が繰り返した。
日和が穏やかに言った。「大丈夫じゃない時は、大丈夫じゃないと言っていい」
「でも、それって甘えじゃないですか?」空が聞いた。
「甘えじゃなくて、正直さです」海斗が答えた。「いつも強がる必要なんてない」
空が静かに泣き始めた。「ありがとう」
日和が背中をさすった。「いつも観察者でいる空さんも、時には観察されていいんです」
ミラが微笑んで頷いた。
空が涙を拭いた。「私、いつも冷静でいなきゃって思ってた」
「なぜ?」日和が聞く。
「心理学に興味があるから。分析する立場だから」
海斗が言った。「でも、空も人間だろ。感情があって当然だ」
「心理学を学ぶ人こそ、自分の感情を大切にすべきです」日和が付け加えた。「理解と抑圧は違います」
空が深く息をした。「そうですね。感情を認めることと、それに溺れることは違う」
ミラが書いた。「感情は敵じゃない」
「その通り」空が微笑んだ。「感情は、情報なんですよね」
日和が頷いた。「辛いという感情は、何かが間違っているというサイン。無視してはいけません」
海斗が聞いた。「これから、どうする?」
空が考えた。「まず、親と話してみる。そして、大丈夫じゃない時は、そう言う」
「それでいい」海斗が微笑んだ。
ミラが書いた。「いつでも聞く」
日和が優しく言った。「私たちは、空さんの味方です」
空が本当の笑顔を見せた。「ありがとう。『大丈夫』って言わなくていい場所があるって、すごく救われる」
四人は静かに座っていた。大丈夫じゃない日があってもいい。そう言える関係が、本当の繋がりだ。今日、空はそれを学んだ。