ミラがノートに書いた。「できると思ってたことが、できなくなってる」
空が心配そうに見た。「何が?」
ミラが書いた。「全部。勉強も、人と話すのも、朝起きるのも」
海斗が横から覗いた。「俺もそういう時ある」
空が聞いた。「自信がなくなってる?」
ミラが頷いた。
海斗が言った。「心理学で何て言うんだっけ?自分ができるって信じる力」
「自己効力感」空が答えた。「心理学者バンデューラの概念です」
ミラが興味を示した。書いた。「なぜ消えるの?」
空が説明した。「いくつかの原因があります。失敗の経験、他者との比較、体調不良」
海斗が思い出した。「俺、テストで連続して悪い点取った時、完全に自信なくした」
「失敗の連続は、自己効力感を大きく低下させます」空が言った。
ミラが書いた。「私も。最近、何をしても上手くいかない」
「認知の歪みかもしれません」空が指摘した。
「認知の歪み?」海斗が聞く。
「現実を歪めて認識すること」空が説明した。「例えば、一つの失敗を『全てダメだ』と一般化する」
ミラがハッとした表情をした。
海斗が言った。「確かに、そういう考え方してたかも」
空が続けた。「他にも、成功を『偶然だ』と思い、失敗を『自分の能力不足だ』と思う。これも歪みです」
ミラが書いた。「じゃあ、どうすれば?」
空が考えた。「まず、小さな成功体験を積むこと」
「小さな成功?」海斗が聞く。
「本当に些細なことでいい」空が言った。「朝、時間通りに起きた。宿題を一問解いた。誰かに挨拶した」
ミラが書いた。「それで自信が戻る?」
「すぐには戻らないけど、徐々に」空が答えた。「自己効力感は、成功体験の積み重ねで育つから」
海斗が実践的な質問をした。「でも、そもそも何もやる気が起きない時は?」
「それは深刻かもしれません」空が真剣に言った。「うつ状態の可能性もある」
ミラが不安そうに見た。
「でも」空が付け加えた。「一時的な落ち込みと、臨床的なうつは違います。境界を見極めることが大切」
海斗が聞いた。「どう見分けるの?」
「期間と程度」空が説明した。「二週間以上、日常生活に支障が出るレベルなら、専門家に相談すべき」
ミラが書いた。「まだそこまでじゃない。でも、このまま悪化したら?」
「だから、今のうちに対処するんです」空が言った。「予防が大切」
海斗が提案した。「俺たちにできることある?」
空が考えた。「ミラさんの小さな成功を認めること。『よくやった』って言うこと」
「それだけ?」
「それだけでも、効果があります」空が答えた。「社会的な承認は、自己効力感を高める重要な要素です」
ミラが恥ずかしそうに書いた。「褒められるのは苦手」
海斗が笑った。「俺も苦手。でも、嬉しいよな」
空が言った。「もう一つ大切なのは、失敗を再解釈すること」
「再解釈?」
「『失敗した』じゃなく『学んだ』と考える」空が説明した。「成長の機会として捉え直す」
ミラが書いた。「難しそう」
「最初は難しい」海斗が認めた。「でも、練習できる」
空が提案した。「三人で、お互いの小さな成功を報告し合いませんか?毎日」
ミラが考えた。そして、頷いた。
海斗が言った。「じゃあ、今日の成功から。俺は、遅刻しなかった」
空が笑った。「それは成功ですね」
ミラが書いた。「私は、ここに来た」
「それも立派な成功です」空が認めた。「人に会うのは、エネルギーが必要ですから」
海斗が聞いた。「空は?」
「私は」空が考えた。「ミラさんと海斗の力になれた、かもしれない」
ミラが書いた。「なれてる。ありがとう」
海斗が言った。「自信が消えても、取り戻せるんだな」
空が頷いた。「消えたわけじゃなく、一時的に見えなくなってるだけ。必ず戻ります」
ミラが小さく微笑んだ。今日、三つの小さな成功があった。それは、明日への小さな希望になった。