「明日、発表なんです」
ミラが珍しく自分から話した。図書館で、空とレオが驚いて顔を上げた。
「発表?」空が聞いた。
「心理学の授業で。でも...」ミラが言葉を切った。
「不安?」レオが察した。
ミラが小さく頷いた。
空が静かに言った。「ミラさんが不安を感じるなんて、意外です」
「なぜ?」ミラが聞いた。
「いつも落ち着いているから」
ミラが苦笑した。「外見と内面は違う」
レオが興味を示した。「何が不安なの?」
「完璧にできない気がする」ミラが正直に答えた。「準備は十分したはず。でも、まだ不安」
空が考えた。「完璧主義ですか?」
「たぶん」ミラが認めた。
「完璧主義は、不安の源になる」空が説明した。「完璧を求めると、常に不足を感じる」
レオが補足した。「完璧は存在しない目標だから」
「でも」ミラが言った。「不安があるのに、発表しないといけない」
空が静かに頷いた。「それが現実ですね。不安が消えるのを待っていたら、何もできない」
「不安を抱えたまま進む」レオが言った。「勇気の定義だ」
ミラが驚いた。「勇気?」
「勇気は、恐れがない状態じゃない」レオが説明した。「恐れがあっても行動すること」
空が例を出した。「俳優も、舞台に立つ前は緊張します。でも、それでも舞台に立つ」
「不安を消そうとするのではなく、不安と共に行動する」ミラが理解した。
「その通り」空が認めた。
ミラが考えた。「でも、不安があると、パフォーマンスが落ちませんか?」
「興味深い質問」レオが言った。「適度な不安は、実はパフォーマンスを向上させる」
「本当ですか?」
空が説明した。「ヤーキーズ・ドットソンの法則。適度な覚醒レベルが最高のパフォーマンスを生む」
「不安が全くないと、集中力が欠ける」レオが加えた。「でも、不安が強すぎると、逆に機能が低下する」
「バランス」ミラが呟いた。
「そう。あなたの不安は、おそらく適度なレベル」空が言った。
ミラがノートに何か書いた。「不安は敵ではない」
「むしろ、あなたが発表を大切に思っている証拠」レオが言った。
空が続けた。「完璧を目指す必要はありません。ベストを尽くせば十分」
「ベストと完璧は違う?」ミラが聞いた。
「完璧は絶対的基準。ベストは、今の自分にできる最善」空が説明した。
レオが頷いた。「ベストは達成可能。完璧は幻想」
ミラが深く息をした。「少し、楽になった」
「不安を受け入れることで、逆説的に不安が減る」空が言った。
「なぜ?」
「不安と戦うことが、不安を強化するから。受け入れると、エネルギーを無駄にしない」
ミラが静かに微笑んだ。「明日、不安と一緒に発表します」
「良い決意」レオが認めた。
空が加えた。「発表が終わったら、結果に関わらず、自分を褒めてください」
「なぜ?」ミラが聞いた。
「不安があっても行動した勇気に対して」
ミラが頷いた。「分かりました」
レオが言った。「僕も、いつも不安だよ。留学生として、完璧なドイツ語も日本語も話せない」
「でも、レオさんはいつも堂々としてる」ミラが言った。
「それは、不安がないからじゃない。不安を受け入れてるから」
空が補足した。「成長は、いつも不安と共にある。安全地帯の外にしかない」
ミラがノートを閉じた。「不安を抱えたまま進む日。それは、成長する日」
「その通り」空が微笑んだ。
レオが立ち上がった。「明日、応援してるよ」
「ありがとう」ミラが静かに言った。「二人と話して、不安との付き合い方が分かった気がする」
空が言った。「不安は、あなたを止めるものではなく、成長のサインです」
三人は図書館を出た。明日の発表、ミラは不安を抱えたまま臨むだろう。でも、それでいい。不安と共に進むことが、本当の勇気だから。