ミラの手が震えていた。
空が気づいた。「ミラさん、大丈夫ですか?」
ミラは答えない。ただ、時計を見続けている。
レオが近づいた。「何か心配事がある?」
ミラがノートに書いた。「期限。間に合わない」
「課題?」空が聞く。
ミラが頷く。レポートの提出は明日だ。
「まだ時間はあるよ」レオが言った。「今からでも間に合う」
でも、ミラの手はまだ震えている。ペンを持てない。
空が理解した。「焦りすぎて、動けなくなってるんだ」
「パニック状態に近い」レオが静かに言った。「不安が思考を麻痺させている」
ミラが目を閉じた。呼吸が速い。
日和がお茶を持ってきた。「ミラさん、少し休みましょう」
ミラが首を横に振る。「時間がない」とノートに書いた。
「でも、このままじゃ進まない」空が指摘した。
レオが説明し始めた。「焦りは、交感神経を活性化させる。闘争・逃走反応だ」
「戦うか、逃げるか」空が理解した。
「でも、課題は戦えない。逃げられない。だから、身動きが取れなくなる」
ミラが苦しそうに頷いた。
「まず、生理的な落ち着きが必要」レオが続けた。「ミラ、僕と一緒に呼吸してくれる?」
ミラが小さく頷く。
「鼻から吸って」レオが見本を見せた。「一、二、三、四」
ミラが真似する。
「口から吐いて。一、二、三、四、五、六」
ゆっくりとした呼吸。何度か繰り返す。
ミラの肩が少し下がった。
「良い」レオが認めた。「副交感神経が活性化してきた」
空がノートを見せた。「焦りの悪循環」と書いてあった。
「不安→身体緊張→思考停止→時間浪費→さらに不安」
「その通り」レオが言った。「この循環を断ち切る必要がある」
ミラが静かに聞いている。震えは少し収まった。
「まず、課題を細分化しよう」空が提案した。「全体を見ると圧倒される」
ミラがノートを取り出した。レポートのテーマ。
「今、何ができる?」レオが聞いた。「次の10分で」
ミラが考えた。「参考文献を一つ読む」と書いた。
「完璧」空が言った。「それだけに集中する」
「全体の完成を考えない」レオが付け加えた。「ただ、目の前の一歩」
ミラが頷いた。本を開く。
10分後、ミラが顔を上げた。少し落ち着いている。
「どう?」空が聞く。
ミラが親指を立てた。
「次の10分は?」
ミラが書いた。「アウトラインを作る」
「いいね」レオが認めた。「段階的に進んでいる」
空が質問した。「なぜ、こんなに焦ったんでしょう?」
ミラが正直に書いた。「完璧にしたかった」
「完璧主義」レオが理解した。「それが逆にプレッシャーになる」
「完璧じゃなくていいんですよ」空が優しく言った。「合格点で十分」
ミラが驚いた表情をした。
「完璧を目指すと、始められない」レオが説明した。「最初から100点は無理だから」
「まず60点を目指す」空が続けた。「そこから改善する」
ミラがゆっくり頷いた。
「焦りは、期待と現実のギャップから生まれる」レオが言った。「理想が高すぎると、常に焦る」
「現実的な目標設定が大切」空が補足した。
ミラがノートに書いた。「今できることだけ」
「そう。それが焦りを減らすコツ」
30分後、ミラはアウトラインを書き終えた。
「調子が出てきましたね」空が微笑んだ。
ミラが小さく笑った。
「焦りは完全には消えないかもしれない」レオが言った。「でも、コントロールできる」
「呼吸、細分化、現実的な目標」空がまとめた。
ミラが感謝の言葉を書いた。「ありがとう」
「明日の今頃は、提出済みだよ」レオが励ました。
ミラが頷いた。焦りはまだある。でも、もう麻痺していない。動ける。
窓の外で日が暮れ始めた。焦りと向き合う一日。それも、成長の一部だ。
「また焦ったら」空が言った。「この方法を思い出してください」
ミラがノートに書いた。「覚えておく」
三人は静かに作業を続けた。焦りは敵じゃない。ただのシグナル。上手く付き合えば、味方になる。