「また失敗した」
海斗が頭を抱えていた。プレゼンテーションで緊張して、言いたいことの半分も言えなかったらしい。
「誰にでもあることだよ」空が慰める。
「でも、俺はいつもこうだ。本番に弱い」
レオが静かに近づいた。「本番に弱いのではなく、自分に厳しすぎるのでは?」
「どういう意味?」海斗が顔を上げた。
「君は完璧を求めすぎている。100点でなければ、0点だと思い込んでいる」
空が頷いた。「all-or-nothing思考だね」
「全か無か思考」レオが説明した。「認知の歪みの一つです」
海斗が考え込む。「確かに、少しでもミスすると、全部台無しだって思っちゃう」
「それが問題」レオが続けた。「現実には、グレーゾーンがある。60点でも、価値はある」
空がノートに書いた。「完璧主義の罠」
レオが補足する。「完璧主義者は、失敗を恐れるあまり、挑戦を避ける。または、小さな失敗で大きく落ち込む」
「俺のことだ」海斗が認めた。
「でも、それは変えられます」レオが言った。「マインドセットの問題です」
「マインドセット?」
「考え方の枠組み。キャロル・ドゥエックという心理学者が研究しました」
空が説明した。「固定マインドセットと成長マインドセット」
「固定マインドセットは、能力は生まれつき決まっていると考える。成長マインドセットは、努力で伸ばせると信じる」
海斗が聞いた。「俺は固定?」
「おそらく。『俺は本番に弱い』という言い方は、変わらない特性だと思い込んでいる」
レオが提案した。「『まだ本番に慣れていない』と言い換えてみては?」
海斗が繰り返す。「まだ、慣れていない...」
「そう。まだ、という言葉は、未来の成長を示唆する」
空が付け加えた。「失敗は、終わりじゃなくて、学びのチャンス」
海斗が少し表情を緩めた。「そう考えると、楽になるかも」
レオが続けた。「自己受容も大切です。弱さを持つ自分を、そのまま受け入れる」
「弱さを受け入れる?」海斗が不安そうに聞く。
「受け入れることは、諦めることではありません」レオが強調した。「現状を認識した上で、改善に向かう」
空が例を挙げた。「『俺は本番に弱い』と認めた上で、『だから練習する』『だから準備する』と続ける」
「対策を立てられるんだ」海斗が理解した。
「そうです。弱さを否定すると、対策も立てられない」
レオが自分の経験を話した。「私も最初、日本語が全く話せなかった。でも、それを弱さとして受け入れたから、勉強できた」
海斗が驚いた。「レオでも、そういうことがあるんだ」
「誰にでもあります。完璧な人間なんていません」
空が静かに言った。「弱さを認めることは、勇気がいるけど、それが成長の始まり」
海斗が深呼吸した。「わかった。俺、本番に弱い。でも、それは練習で改善できる」
「良い言い換えです」レオが認めた。
空が微笑んだ。「自己批判じゃなくて、自己理解になってる」
海斗が少し笑った。「なんか、前より気持ちが軽い」
レオが説明した。「自己受容は、自尊心を守ります。自分を責め続けると、心が疲弊する」
「セルフコンパッション」空が言った。
「自己への思いやり」レオが訳した。「他者に優しくするように、自分にも優しくする」
海斗が考えた。「友達が同じ失敗したら、責めないもんな」
「では、なぜ自分には厳しいのか?」レオが問いかけた。
「...わからない」
「それを考えることも、自己理解の一部です」
三人は静かに座っていた。弱さと向き合うことは、痛みを伴う。でも、それを避けていては、本当の成長はない。
「次のプレゼン、頑張ってみる」海斗が言った。
「完璧を目指さずに」空が付け加えた。
「うん。60点でもいい。そこから始める」
レオが頷いた。「それが、成長マインドセットです」
弱さを認めた日。それは、強さへの第一歩だった。