「今日、すごく驚いたことがあった」
陸が興奮気味に言った。
「何?」由紀が聞いた。
「図書館で、S教授が漫画読んでた」
葵が笑った。「それは確かに驚きだ」
「情報量が大きいんだな」
「情報量?」由紀が首をかしげた。
葵が説明し始めた。「情報量は、驚きの度合いで測れる。I(x) = -log₂ P(x)」
「確率が低いほど、情報量が大きい」
陸が理解した。「S教授が漫画を読む確率、めっちゃ低いから、情報量でかい」
「正確に。逆に、予想通りの出来事は情報量が少ない」
由紀が例を出した。「陸が遅刻するのは、もう驚かないです」
「ひどい」陸が笑った。「でも確かに、情報量少ないな」
「頻繁に起こることは、確率が高い。だから情報量が小さい」
葵が続けた。「情報理論では、驚きそのものが情報なんだ」
「面白い考え方ですね」由紀が感心した。
陸が考えた。「じゃあ、驚きを集めれば、たくさん情報が得られる?」
「そう。新しい経験、予期せぬ出来事。それが学びの源だ」
「でも」由紀が言った。「驚きばかりだと疲れませんか?」
「良い指摘だ」葵が頷いた。「適度な予測可能性も必要」
「バランスですね」
「そう。完全に予測できる世界は退屈。完全に予測不能な世界は混沌」
陸が真剣に聞いた。「最適な驚きレベルって?」
「エントロピーが中程度の状態」葵が答えた。
「中程度?」
「確率分布が一様に近いとき。つまり、どの出来事も同じくらい起こり得る」
由紀が計算した。「サイコロなら、各面が1/6。これがエントロピー最大?」
「正解。偏りがないとき、最も予測しづらい」
陸が考え込んだ。「じゃあ、日常も同じ?毎日違うことが起きるのが理想?」
「完全には違う。人間は、ある程度のルーティンを好む」
「なぜですか?」
「認知負荷を減らすため。全てが新しいと、脳が疲れる」
由紀が理解した。「だから、予測可能な部分と、驚きの部分を混ぜる」
「そう。ルーティンの中に、適度な変化を入れる」
「放課後ここで会うのはいつも同じだけど、話す内容は毎回違う」陸が観察した。
「完璧な例だ」葵が確認した。「設定は予測可能、内容は驚き」
葵がまとめた。「驚きの瞬間を集めることは、情報を集めること。でも、全てが驚きである必要はない」
「効率的に驚きを得る」陸が言った。
「そういうこと。新しい場所に行く、新しい人に会う、新しいことを学ぶ」
由紀がノートに書いた。「驚き=情報。でも、適度に」
「バランスが大切だ」
陸が窓の外を見た。「明日は、何か新しいことしようかな」
「良い心がけだ。でも、無理はしないように」
「驚きを楽しむ余裕も必要ですよね」由紀が言った。
「そう。驚きは、心に余裕があるときに最も価値がある」
葵が微笑んだ。「情報理論は、驚きを数学的に捉える。でも、驚きの感情までは捉えられない」
「数式の外にあるもの」
「そう。それを忘れないように」
三人は笑った。驚きの瞬間は、人生を豊かにする。それを集めることが、成長だ。
「次のS教授の驚き行動、楽しみだな」陸が言った。
「観測を続けよう」葵が答えた。
「情報収集ですね」由紀が笑った。
「驚き日記をつけようぜ」陸が提案した。「毎日の驚きレベルを記録する」
「それは自分のエントロピーを定量化することになるね」葵が面白そうに言った。
「学びについての学び」由紀が付け加えた。
部室に笑い声が響いた。驚きを集める日々は、今日も続く。