「明日のテスト、どうしよう」
海斗が落ち着かない様子で歩き回っている。
「準備はしたんでしょ?」空が聞く。
「したけど...もし忘れたら?もし問題が難しかったら?もし時間が足りなかったら?」
レオが静かに言った。「不安の連鎖だ」
「連鎖?」海斗が聞く。
「一つの心配が、次々と新しい心配を生む。心理学では、破局化思考と呼ぶ」
空が補足した。「最悪のシナリオを想像し続けること」
海斗が認めた。「まさにそれだ。どんどん悪い方向に考えちゃう」
レオがホワイトボードに図を描いた。「脳のメカニズムを理解しよう」
「脳?」
「不安は、扁桃体という部分で生まれる。危険を察知する警報装置だ」
空が説明した。「扁桃体は、過去の記憶から危険を予測する」
「じゃあ、俺の扁桃体が暴走してるの?」
「そうとも言える」レオが頷いた。「扁桃体は、実際の危険と想像上の危険を区別できない」
海斗が驚いた。「区別できない?」
「だから、テストという実際にはそれほど危険でない状況でも、強い不安反応が起こる」
空が付け加えた。「進化の名残だね。昔は、過剰に警戒するほうが生き延びやすかった」
レオが続けた。「でも、現代社会では、その反応が過剰になることがある」
「じゃあ、どうすればいいの?」海斗が聞く。
「前頭前野を活性化させる」レオが答えた。
「前頭前野?」
「理性的思考を司る部分。扁桃体の興奮を抑える役割がある」
空が具体的な方法を提案した。「例えば、不安を言語化すること」
「言語化?」
「『明日のテストが不安』と口に出す。それだけで、前頭前野が働き始める」
海斗が試してみる。「明日のテストが、不安...」
「どう?」空が聞く。
「少し、落ち着いた気がする」
レオが説明した。「感情をラベリングすることで、感情との距離ができる」
「他には?」海斗が聞く。
「現実的に考える練習」レオが答えた。「本当に最悪のことが起こる確率は?」
海斗が考える。「テストに落ちる確率...準備したし、多分低い」
「では、もし落ちたら?」
「再試験がある」
「再試験も落ちたら?」
「...それでも、留年はしない」
空が微笑んだ。「ほら、最悪でも対処できる」
レオが指摘した。「破局化思考は、論理的に検証すると、ほとんど根拠がない」
海斗が少し笑った。「確かに、考えすぎてたかも」
「もう一つの方法」レオが続けた。「呼吸法」
「呼吸?」
「深呼吸は、副交感神経を活性化させる。扁桃体の興奮を鎮める効果がある」
空が実演した。「ゆっくり吸って、ゆっくり吐く」
海斗も真似する。数回繰り返すと、明らかに表情が和らいだ。
「本当だ、楽になった」
レオが説明した。「身体をリラックスさせると、脳も落ち着く。心身は連動している」
空がノートに書いた。「不安のスパイラルを止める方法」
「1. 感情をラベリングする」
「2. 現実的に検証する」
「3. 呼吸を整える」
海斗が読んだ。「これ、覚えておく」
レオが最後に言った。「不安は、完全には消せない。でも、コントロールはできる」
「不安と付き合う方法を学ぶんだね」空が言った。
海斗が頷いた。「不安は敵じゃなくて、ただの脳の反応」
「正確」レオが認めた。「理解すれば、恐れる必要はない」
空が付け加えた。「不安は、準備が必要だと教えてくれる信号でもある」
海斗が立ち上がった。「よし、もう一度復習して、早く寝る」
「良い計画」レオが頷いた。
三人は片付けを始めた。不安が膨らむメカニズムを知ることで、それを制御する力も得られる。脳は複雑だが、理解可能だ。
「明日、頑張って」空が励ました。
「ありがとう。なんか、大丈夫な気がしてきた」
不安の中にも、希望はある。それを信じて、明日を迎える。