「テストで間違えた。最悪」
晴がため息をついた。
サイモンが慰めた。「間違いは学びのチャンス」
「よく聞く言葉だけど、納得できない」
野亜が静かに言った。「損失は損失です」
「そう!点数は戻ってこない」晴が同意した。
サイモンが考えた。「確かに、間違いには必ずコストがある」
「じゃあ、『間違いは良いこと』って嘘?」
「単純化しすぎだね」
野亜が質問した。「間違いから学べるのは確か。でも、学ばなければ?」
「ただの損失」晴が答えた。
サイモンが整理した。「間違い自体は中立。それをどう扱うかが重要」
「扱い方?」
「反省し、分析し、改善する。そのプロセスが成長を生む」
晴が反論した。「でも、間違えないに越したことはない」
「理想的にはね。でも、現実的には?」
野亜が補足した。「間違えずに学ぶのは難しい」
「どうして?」
サイモンが説明した。「試行錯誤は学習の基本。完璧を目指すと、挑戦できなくなる」
晴が考えた。「間違いを恐れて、何もしない方が悪い?」
「状況による。でも、多くの場合はそう」
野亜が別の視点を提示した。「でも、取り返しのつかない間違いもあります」
「そうだ」サイモンが真剣になった。「医療ミスとか」
「じゃあ、どうすれば?」
「リスクマネジメント。許容できる間違いと、避けるべき間違いを区別する」
晴が理解した。「全ての間違いが同じじゃない」
「そう。学習のための間違いと、破壊的な間違い」
野亜が質問した。「どう区別する?」
「可逆性」サイモンが答えた。「元に戻せるか」
「戻せない間違いは、避けるべき」
「そして、影響の大きさ」
晴がノートに書いた。「小さな失敗は歓迎、大きな失敗は回避」
「シリコンバレーの『Fail Fast』の考え方だ」
野亜が興味を持った。「早く失敗する?」
「早く失敗して、早く学ぶ。大きな失敗の前に、小さな失敗で修正する」
晴が納得した。「予防接種みたい」
「良い比喩」サイモンが微笑んだ。
野亜が別の角度から聞いた。「でも、間違いに価値があるのは、後から見たときだけでは?」
「鋭い」サイモンが認めた。「その瞬間は、ただ苦しい」
「美化しすぎるのは危険」
「そう。『間違いは素晴らしい』というメッセージは、苦痛を軽視する」
晴が共感した。「間違えたとき、本当に辛い」
「その辛さを認めつつ、でも学ぶ」
野亜が質問した。「間違いから学べない人は?」
「同じ間違いを繰り返す」サイモンが答えた。
「それは成長じゃない」
「そう。間違いは必要条件だが、十分条件ではない」
晴が整理した。「間違い+反省=成長」
「それに近い。でも、反省だけでも不十分」
「何が必要?」
サイモンが説明した。「行動の変化。次に違うことをする」
野亜が付け加えた。「そして、環境の支援」
「支援?」
「間違いを許容する文化。罰するのではなく、学びを促す」
晴が驚いた。「文化も関係する」
「大いに。減点主義では、間違いを隠すようになる」
サイモンが例を出した。「航空業界のCRM。失敗を共有して、システムを改善する」
「失敗から学ぶ仕組み」
「個人だけでなく、組織の問題だ」
野亜が静かに言った。「間違いは、情報です」
「情報?」
「システムの弱点を示す信号」
サイモンが頷いた。「そう見ると、間違いは贈り物とも言える」
晴が笑った。「いらない贈り物」
「でも、役に立つ」
野亜が質問した。「じゃあ、間違いは成長か損失か」
サイモンが慎重に答えた。「両方。損失は必ずある。成長は選択次第」
「選択?」
「間違いをどう受け止めるか」
晴が窓を見た。「間違えたこと自体は変えられない。でも、そこからどうするかは選べる」
「まさに」サイモンが認めた。
野亜が立ち上がった。「間違いを恐れすぎず、軽視もせず」
「バランスだ」サイモンが微笑んだ。
晴が深呼吸した。「間違えた。悔しい。でも、次に活かす」
「それが成熟した態度」
三人は歩き出した。間違いは避けられない。でも、それをどう扱うかは、自分次第だ。