「俺たち、ランダム変数みたいだよな」
陸が唐突に言った。
「え?」由紀が驚く。
葵が興味深そうに聞いた。「どういう意味?」
「だって、いつも予測できないじゃん。俺も、由紀も、葵先輩も」
「面白い見方だ」葵が微笑んだ。「実際、人間の行動は確率的にモデル化できる」
「どういうこと?」由紀が聞く。
「ランダム変数Xは、確率的に値を取る変数」葵が説明した。「例えば、明日の陸の遅刻時間X」
「ひどい例だな」陸が笑った。
「でも、適切だ。0分から30分まで、確率分布を持つ」
ミラが静かにノートに書いた。「X ~ Distribution」
「確率分布」葵が解説した。「どの値を、どれくらいの確率で取るか」
由紀が理解し始めた。「人それぞれ、違う分布を持つ?」
「そう。陸の遅刻時間は一様分布に近いかも」
「ランダムってこと?」
「均等に遅れる」葵が笑った。
陸が反論した。「由紀は正規分布だろ。いつもだいたい同じ時間」
「正規分布?」
「平均値の周りに集中する分布」葵が説明した。「安定してるってこと」
由紀が少し照れた。「それって褒められてる?」
「褒めてます」陸が言った。
ミラがメモを見せた。「E[X] = mean, Var[X] = spread」
「期待値と分散」葵が訳した。「期待値は平均的な値、分散はばらつき」
「俺の分散、高そうだな」陸が自覚した。
「確かに。予測しにくい」
由紀が聞いた。「先輩の分布は?」
葵が考えた。「私は...二項分布かもしれない」
「二項分布?」
「成功か失敗か。説明がうまくいくか、いかないか」
「先輩、いつもうまくいってますよ」陸が言った。
「見えないところで失敗もある」
ミラが新しいメモ。「Independence: P(X,Y) = P(X)P(Y)」
「独立性」葵が説明した。「二つのランダム変数が互いに影響しないこと」
「俺たち、独立?」陸が聞く。
「完全には独立じゃない」葵が答えた。「相関がある」
「相関?」
「一方の値が、もう一方に影響する」
由紀が例を挙げた。「陸くんが遅刻すると、会議が遅れる」
「それは相関だ」葵が認めた。
陸が笑った。「悪い影響与えてるな」
「でも、良い相関もある」
「例えば?」
「陸の冗談と、場の雰囲気の良さ」葵が言った。「正の相関」
「お、褒められた」
ミラが微笑んで書いた。「Cov(X,Y) = E[XY] - E[X]E[Y]」
「共分散」葵が解説した。「相関の強さを測る」
由紀が考えた。「私たち、どれくらい相関してるんだろう」
「結構高いと思う」葵が答えた。「一緒にいる時間が長いから」
「でも、完全に相関したら?」陸が聞く。
「一人が他を決定する。それはつまらない」
「独立すぎても、関係ない」由紀が付け加えた。
「適度な相関が良い」葵が頷いた。「お互いに影響し合うけど、独自性も保つ」
陸が窓の外を見た。「ランダム変数たちの放課後か」
「良いタイトルだ」由紀が笑った。
ミラがまとめを書いた。「Different distributions, positive correlation, unique variance」
「異なる分布、正の相関、独自の分散」葵が訳した。
「それが、俺たちだ」陸が言った。
四人は頷いた。ランダム変数のように予測できない。でも、確率分布は持っている。そして、確かに繋がっている。それが、放課後のリアルだ。