「情報って、結局何なんですか?」
由紀の質問に、陸が即答した。「データのことでしょ?」
「違う」葵が首を振る。「データと情報は別だ」
「え?」二人が同時に驚く。
葵はホワイトボードに書いた。
「データ:生の事実や数値 情報:データに意味が加わったもの 知識:情報を体系化したもの」
「例を挙げよう。『25』という数字はデータだ」
由紀が考える。「それだけじゃ意味がない」
「そう。でも『明日の気温は25度』なら情報になる。文脈が加わった」
陸が理解した。「じゃあ、同じデータでも、受け取る人によって情報量が違う?」
「鋭い。それが主観的情報量だ」葵が頷いた。「既に知っていることなら、情報量はゼロ。知らないことなら、情報量は高い」
由紀がノートに書く。「情報は受信者の知識に依存する」
「まさに。だから同じメッセージでも、相手によって価値が変わる」
陸が例を出した。「『明日は雨』というニュース。傘を持ってない人には高価値。持ってる人には低価値」
「良い例だ。情報の価値は、不確実性の減少で測れる」
由紀が疑問を持った。「でも、嘘も情報ですか?」
葵が真剣な顔をした。「深い質問だ。情報理論では、真の確率分布を仮定する。嘘は、モデルを攻撃する行為だ」
「攻撃?」
「受信者の確率推定を狂わせる。だから、通信の敵だ」
陸が考え込んだ。「じゃあ、情報の正体って、不確実性の減少量?」
「それが一つの定義だ。シャノンの定義でもある」
葵は図を描いた。
「最初の状態:不確実性が高い 情報を受信:可能性が絞られる 最終状態:不確実性が低い」
「情報量は、その差分だ」
由紀が興奮した。「だから、珍しいニュースほど情報量が多いんですね!」
「正解。確率が低いイベントが起きると、驚きが大きい。驚き=情報量だ」
陸がふざけて言った。「俺の行動、いつも驚かれるから、情報量多いってこと?」
「ある意味で」葵が笑った。「予測不能な行動は、高情報量だ」
由紀が真面目に聞く。「情報には、物理的な実体があるんですか?」
「良い質問。情報は抽象的な概念だが、物理的制約を受ける。メモリ、エネルギー、時間。全てが必要だ」
「量子情報理論では、情報と物理法則の関係を研究する」
陸が目を輝かせた。「情報って、宇宙の基本的なものかもしれない」
「そう考える物理学者もいる。宇宙は情報処理システムだと」
由紀が窓の外を見た。夕日が沈んでいく。
「情報の正体、まだ完全には分かってないんですね」
「そうだ」葵が認めた。「だから研究が続く。シャノンが定義したのは、一つの側面だけだ」
「でも、その側面が強力すぎる」陸が言った。
「だから情報理論は、こんなにも広く使われる。通信、暗号、機械学習、物理学」
由紀がノートを閉じた。「情報の旅は、まだ始まったばかりですね」
「そうだ。君たちも、その旅の一部だ」
三人は静かに教室を出た。情報の正体を探す旅は、続く。