「また『いいね』の数を数えてる」
レオが呆れたように言った。海斗は、スマートフォンを何度もチェックしていた。
海斗が反発した。「別にいいだろ」
空が静かに観察していた。「気になるんですか?」
「気になるよ」海斗が認めた。「投稿して、反応がないと不安になる」
日和が聞いた。「何が不安?」
海斗が考えた。「自分が...価値がないんじゃないかって」
レオが指摘した。「『いいね』の数で、価値が決まるの?」
「決まらないのは分かってる」海斗が苛立った。「でも、気になるんだ」
空が言った。「承認欲求ですね」
「承認欲求?」海斗が聞く。
「他者から認められたい、という欲求」日和が説明した。「人間の基本的な欲求の一つです」
海斗が少し安心した。「じゃあ、おかしくないのか」
「おかしくはありません」日和が言った。「でも、程度が問題です」
空が補足した。「承認欲求が強すぎると、自分の行動が他者の評価に支配される」
海斗が黙り込んだ。
レオが聞いた。「マズローの欲求階層説、知ってる?」
「聞いたことある」海斗が答えた。
日和がホワイトボードに図を描いた。ピラミッド型。
「下から、生理的欲求、安全欲求、所属と愛の欲求、承認欲求、自己実現欲求」
「承認欲求は、上から二番目」空が指摘した。「重要だけど、それだけでは不十分」
海斗が聞いた。「どういうこと?」
「承認欲求が満たされても、最終的には自己実現が必要」日和が説明した。「自分自身の価値基準で生きること」
レオが付け加えた。「外的動機と内的動機の違いだ」
「外的動機?」
「他者の評価のために行動すること」空が説明した。「内的動機は、自分の興味や価値観のために行動すること」
海斗が理解した。「俺、外的動機ばかりだ」
「気づくことが第一歩」日和が励ました。
レオが質問した。「海斗、本当にやりたいことは何?『いいね』がなくても」
海斗が考え込んだ。「分からない。ずっと、人にどう見られるかばかり考えてた」
空が優しく言った。「今から探せばいいんです」
日和が提案した。「試しに、誰にも見せない作品を作ってみませんか?」
「誰にも見せない?」海斗が驚いた。
「そう。完全に自分のために」日和が言った。「反応がない状態で、何を感じるか観察する」
海斗が不安そうに言った。「でも、それって意味あるの?」
「大いにある」レオが断言した。「自分の内なる声を聞く練習だ」
空が付け加えた。「承認欲求自体は悪くありません。でも、それだけに依存すると、脆くなる」
「脆く?」
「他者の評価が変われば、自己価値も揺らぐ」日和が説明した。「でも、内的な価値基準があれば、安定します」
海斗が聞いた。「どうやって内的な基準を作るの?」
空が答えた。「自分に問いかけることです。これは本当にやりたいことか?楽しいか?意味があるか?」
レオが実践的なアドバイスをした。「SNSから一週間離れてみるのは?」
海斗が焦った。「一週間も?」
「実験だよ」レオが笑った。「どんな変化があるか観察する」
日和が優しく言った。「承認欲求に気づき、それと距離を取ることで、自分が見えてきます」
海斗が迷った。でも、ゆっくりと頷いた。
「やってみる」
空が励ました。「私たちも一緒にやりましょうか」
「え?」
「SNS断ち。一週間」空が提案した。
レオが同意した。「面白い。僕もやる」
日和が微笑んだ。「では、四人で実験ですね」
海斗が少し嬉しそうに言った。「みんなと一緒なら、できるかも」
一週間後。
海斗が報告した。「最初は不安だったけど、だんだん楽になった」
空が聞いた。「何か発見は?」
「『いいね』がなくても、俺は存在してる」海斗が笑った。「当たり前なんだけど、忘れてた」
レオが言った。「承認欲求は消えない。でも、それに支配されなくなる」
日和が付け加えた。「自己価値は、他者ではなく、自分が決める。それを思い出すことが大切です」
海斗がスマートフォンを見た。でも、すぐにしまった。
「たまにチェックするのはいい。でも、それが全てじゃない」
空が微笑んだ。「バランスですね」
承認欲求に揺れる心。それは人間らしさでもある。でも、それだけに縛られない強さ。それを、四人は学び始めた。